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第3章 第2話

 手早くシャワーを済ませた莉音は、祖母が用意しておいてくれた素麺(そうめん)でお昼を済ませると、祖母の運転する軽トラックで街中のスーパーに出向いた。  出掛けに冷蔵庫の中身もチェックしてきたので、必要な材料と調味料を手早く買いそろえていく。買い物の代金は祖母が払うと言ってくれたが、それではお礼にならないので自分で払った。 「なんか、こげえ楽しそうな莉音ちゃんな、ひさしぶりに見るねぇ。やっぱし料理が好きなんやなあ」  莉音は照れ笑いした。 「うん、ひさしぶりに楽しい。喜んでもらえるかなって思いながらメニュー決めて料理するの、好きだから」 「そうやなぁ。アルフさんも、いっつも莉音ちゃんの料理、喜んじくれちょったもんねぇ」  祖母の口から、あの一件以来はじめてヴィンセントの名前が出て、思わずドキッとした。 「あの、おばあちゃん」  車を運転する祖母に、莉音は思いきって尋ねてみることにした。 「僕とアルフさんのこと、どう思ってる? やっぱり反対? 男同士で気持ち悪い?」  ちょうど赤信号で止まったタイミングで祖母はハンドルから手を放すと、膝の上で両手を握りしめている莉音を安心させるように、ポンポンと軽く叩いた。 「ごめんねぇ。おじいちゃんな頑固やけんなぇ」  その声がいたわりに満ちていて、莉音は不覚にも泣きそうになった。 「わたしには難しいこたあ、ようわからん。でもアルフさんと一緒におる莉音ちゃんな、しんけん幸せそうやったちゃ。あん()も莉音ちゃんのことぅ、とってん大事にしちくれちょんことがようわかった。おばあちゃんな、ふたりが幸せなんがいちばんじゃねえかっち思うちゃ」 「おばあちゃん……」 「おじいちゃんも、いま、一生懸命(しらしんけん)自分ぅ納得させようと頑張りよんところやけん、もうちいと我慢しち付き合うちゃってくりいなあ」  おじいちゃんも可愛い孫に嫌われたくなくて葛藤中なのだと祖母は笑った。  莉音は声に出して返事をすることができず、うんうんと俯きながら何度も大きく頷いた。祖母の優しさが身に染みた。同時に、自分を想ってくれる祖父の気持ちも。  帰宅した莉音は、買ってきた食材の中から真っ先にメロンを取り出して包丁を入れた。  種を取って、果肉を適当な大きさに切り分けると、生クリーム、牛乳、ハチミツ、練乳と一緒にミキサーに入れて混ぜ合わせる。それを容器に移して冷凍庫に収め、すぐに次の準備に取り掛かった。  トウモロコシを茹で、ミートソース、ベシャメルソースを作り、それぞれの料理に合わせて野菜を切って準備を調えていく。途中、祖父が台所に顔を出した。 「夕方、六時ころに達夫たちが来る。作ったもんぅ届くるより、食べに来たほうが早え」  一瞬驚いたが、買い物に行っているあいだに祖父が連絡しておいてくれたのだろう。 「うん、わかった。それまでには大体できあがってると思うから」 「たらんもんがありゃあ言え。畑からとっちくる」 「ありがとう。でも、冷蔵庫に入ってるぶんで多分大丈夫だと思う。たりなかったらお願いするね」  莉音が言うと、祖父はそうかと頷いてあっさり出ていった。心なしか、祖父の表情もやわらいでいるように見えた。お互いにずっと、歩み寄るタイミングを見計らっていた感じがひしひしと伝わってきて、莉音はひそかに安堵の息を漏らした。

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