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第3章 第3話(3)
「いまはいろんな便利なもんが溢れちょる反面、コスパじゃタイパじゃって、あらゆることに合理性が求められちょるじゃねえ? みんなあくせくと生き急いじょるようなとこがあって、若い人たちゃ速すぎる時代ん流れに呑まれちょる。物価高じゃ税金じゃって経済的にも余裕が持てんし、それやったら時間もお金も、全部自分の好きなことにつぎこんだほうがいいって、結婚どころか恋愛自体から遠ざかってしもうてる子も増えてきちょっちゃ」
産めよ殖 やせよの時代はとうに終わってしまったのだと優子は言った。
「大体、もし恋人や伴侶がでけたとしてん、それで幸せになるるとはかぎらんやろ? 浮気じゃ借金じゃ暴力じゃって、パートナーにさんざんつらい 思いをさせられて、泣かされちょる人だって世ん中には、ようけいる。それやったら世間体やなんやって人目を気にせず、自分が納得でくる生きかたをすりゃいいって、あたしゃ思うわ。そんげ中で、自分をだれよりも大切にして愛してくるる人とめぐり逢えたら最高やし、自分もそこまで真剣に相手を愛せたら言うことなしよね。男だおなごだ、年寄りだ子供 やなんて、小せえことちゃ」
大人が子供を、なんちゅうとはさすがに論外やけど、と優子は笑った。
「そりゃあね、あたしだって母親やけん、子供 が結婚しち孫ができち、なんて想像することだってあるよ? だけどもしそれで、お嫁さんや娘婿と反りが合わんかったら、やら思うとね」
「おまえみてえなうるさい 姑は、向こうも嫌やろうなぁ」
すかさず達彦が茶化すと、優子はその背中を思いっきりひっぱたいた。莉音はその勢いにギョッとする。だが、達夫も美和子もニコニコ笑って、やり過ごしていた。父と母が健在だったら、こんなふうにやりとりすることもあったのだろうかと思った。
「ともかく 、子供 を嫁姑問題みたいなんン板挟みにすっとは嫌やし、なによりもまず、本人が幸せならそれがいちばんっちゅう話。おじさんだって、莉音ちゃんが幸せでいてくれたら、それ以上なんも言うことはねえやろ?」
優子の問いかけに、祖父は黙りこくった。ヴィンセントと自分のことが、その胸にあることは間違いない。祖母が、それとなく自分と祖父の様子を窺っている。
「あ、これうめえっ!」
野菜と鶏肉の南蛮漬けを食べた優子が、声をあげた。途端に達夫たちも、こっちも美味しい、これははじめて食べたと食卓の料理に話題が移る。
「あ~っ、やっぱし莉音ちゃんが、うちにお嫁に来てくれたら最高なんになぁ!」
優子の言葉に、達彦がまだ言うかとあきれた顔をした。
「おまえ、なんでそこまで嫁にこだわる。莉音くんに失礼やろが。うちには娘もおるんやけん、婿でいかろうに」
「ええ~っ、わかっちょらんなぁ。あたしは娘婿じゃねえで、可愛い お嫁さんがほしいと。っちゅうか、ぶっちゃけ、莉音ちゃんのお姑さんになりてえんやわ。こげえ綺麗で気立てがようて素直で優しいなんて、まさに理想んお嫁さんだもん。それに娘婿やったら、親族や集落ん集まりんときに、むさくるしいオッサンどもんほうに莉音ちゃん取られてしまうじゃねえ」
そんげん許せん、と優子はいきりたった。
「あたしはねえ、そげな小汚い オッサンどもが酒かっくらってバカ騒ぎしちょる裏で、むぞらしい莉音ちゃんと男どもん悪口言いながら、楽しゅうお料理してえん!」
「おまえ、言いよんことムチャクチャだど……」
さすがの達彦もドン引きした様子で顔を引き攣らせた。
「だって本心やけん。っちゅうか、しみじみ思うたわ。あたし、我が子ん恋愛や結婚にはそこまで興味ねえし、本人の好きにすりゃいいって思うけんど、むぞらしいお嫁さんとキャッキャするんが夢なんやわ。そん夢を体現したんが莉音ちゃん。ね、莉音ちゃん、なんやったら、うちん子と結婚せんでんいいけん、『お嫁さん』っちゅう立場でうちに来ん?」
う~んと大事にするよ、と言われて、莉音はどう反応したものか困惑した。
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