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第5章 第2話(3)
「写真はね、なんかそれっぽく写ってるけど、熱愛より親愛に近いんじゃないかなって感じた」
だって、自分は知っている。愛情を示すときのヴィンセントが、どんなふうになるのかを。
写真は何度も確認したが、これは男女のそれではない。
「さっき、アルフさんは僕にずっと優しかったって言ったでしょ? だけど、おじいちゃんたちが帰るまえの晩、僕、おじいちゃんと言い合いになって、はじめてアルフさんに怒鳴られた。僕もすごく興奮してたし、なんにも悪いことしてないのになんでって全然納得できなかった。なんでアルフさんは僕じゃなくて、おじいちゃんの味方するの? なんで僕に謝らせようとするの? なんで勝手に僕が大分に行くことを了承しちゃうのって」
「莉音……」
「そのあと僕、すごい癇癪起こして、一生懸命なだめて話し合おうとしてくれたアルフさんにも当たり散らして、そのまま飛び出してきちゃった」
バカだよね、と莉音は笑う。
「それなのにアルフさん、そんな僕に毎日メッセージ送ってくれてた。僕、完全に拗 ねちゃってたからずっと無視して、まだ一度も返信してないのに、いつも僕のことを気にかけてくれて、それからおじいちゃんとおばあちゃんのことも、必ず気遣う言葉を添えてくれてた」
「口ではなんとでも言ゆる」
「そうかもしれないけど、そんなふうに表面取り繕 うだけの人が、ああいういざこざの真っ最中に、僕を叱りつけたりなんかしないでしょう? アルフさんなら、どうとでもうまくとりなすこともできたんだから」
だがヴィンセントは、その場凌 ぎの誤魔化しを是としなかった。
「僕、こっちに来てからもずっと、なんでアルフさんは勝手に僕の大分行きを決めちゃったんだろうって、その理由がわからなくて悶々としてたんだけど、いまなら、ちゃんとわかるよ」
言ったあとで莉音は居ずまいを正し、深々と頭を下げた。
「おじいちゃん、ごめんなさい。僕、あのとき感情にまかせて、僕たちのことを認めてもらえないなら縁を切るなんて、酷いこと言っちゃった。アルフさんに謝れって叱られて、当然だったと思う。おじいちゃんは僕のことを思って心配してくれてたのに、酷い言葉で傷つけた。おばあちゃんも、ごめんなさい」
「りお……」
言いかけた祖父は、そのまま口を噤 んだ。祖母も泣きそうな顔で、いいのよと言うように無言で首を振る。
祖父も自分も、あの日からずっと、大きなしこりを胸の中に抱えたまま過ごしてきた。
「もしあのまま喧嘩別れになっちゃったら、おじいちゃんとはずっと、気まずいままだったと思う。離れてるぶん、気持ちもどんどん遠ざかって拗 れたままになっちゃってただろうし。アルフさんには、それがわかってたから僕を大分に行かせるって言ったんだなって、ようやく理解できた」
ひとつの答えにたどり着くと、あとは絡まった糸を解きほぐすのに時間はかからなかった。
「アルフさんは、そういう人なんです。自分の立場や気持ちよりも、まず僕にとっての最善をいちばんに考えてくれる。だから僕は、彼が僕を裏切ることは絶対ないって信じられる」
祖父はもう、なにも言おうとしなかった。
「アルフさんは僕のことを過保護すぎるくらい甘やかして大事にしてくれるけど、僕が間違ったことをすれば、きちんと叱って正してくれる。僕が好きになったのは、そういう人」
話すうちに、鼻の奥がツンと痛くなった。
「嫌な思いをさせちゃってごめんなさい。男同士なんてって、おじいちゃんが思うのもわかる。僕だってアルフさんと出逢うまで、自分が男の人と恋愛するなんて夢にも思ってなかったから。普通に女の人を好きになって、結婚とかもするのかなって思ってた。だけど僕が出逢ったのはアルフさんだった。『普通』の枠からはみ出ちゃった僕は、おじいちゃんたちにひ孫の顔も見せてあげられない。でも僕、アルフさんが好きです」
言った途端に涙がポロリと零 れ落ちた。
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