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第6章 第2話

 イベント終了後、莉音は地域振興課の職員に誘われ、施設内のレストランに移動した。  イベントの成功を祝して打ち上げをするということで、店内の一角に予約席が設けられ、企画に携わった地域振興課と広報課、それぞれの職員が集まりはじめていた。 「あ、莉音ちゃ~ん! こっちこっち! お疲れさま~!」  打ち上げの準備をはじめていた優子が、莉音に気づいて笑顔で手を振った。その傍には、今日までずっと、運転手役を務めてくれた達哉の姿もあった。 「お疲れさまです」  近づいて挨拶をすると、優子は莉音の抱える荷物を見て目をまるくした。 「わあっ、すごい荷物やなあ! 生徒さんたちからんプレゼント?」 「はい。なんか、こんなにたくさんいただいてしまって」  全然たいしたことはしてないのに、と恐縮する莉音に、優子は満面の笑みを浮かべた。 「莉音ちゃんが一生懸命やってくれたんが、みんなに伝わった証拠ちゃ。みんな、本当に(まこち)楽しそうやったもんね。ほんとにありがとね、無理なお願い聞いてくれて」 「いいえ、僕こそ楽しかったです。はじめてだったので、とにかく必死でしたけど、やってみてよかったなって。貴重な機会をいただけて、すごく勉強になりました。誘ってくださってありがとうございました」  優子は「もう、ほんとにいい子なんやけん」と、感極まった様子で涙ぐんだ。 「今日はお礼も兼ねた打ち上げやけん、遠慮のう、ぎょうさん食べていって」 「はい、ありがとうございます。達哉さんも、ずっと送り迎えしてくださって、ありがとうございました」 「いや、俺は全然。なんも……」  歯切れ悪く応じた達哉は、気まずそうに視線を逸らした。雑誌の件を祖父母にリークしたことを気にしているのだろう。  今日、会場に来る車中で謝罪を受けたが、かえって気まずくなっていた祖父との関係が修復できたので気にしないでほしいと伝えた。それでもやはり、達哉の中では割り切れない部分があるのだろう。 「ちょっとあんた、なんなん、そんシャキッとせん返事は! 年下ん莉音ちゃんが礼儀正しゅうお礼言うてくれちょるんにっ」  そんな息子の背中をバシッと叩いた優子は、莉音に向かってごめんねぇと謝った。 「お盆休み終わって明日大阪に帰るけん、しょぼくれちょんのちゃ」 「やけん違うって! ガキじゃねえんだけんっ」  不機嫌そうに達哉は反論したが、莉音は「えっ?」と目を瞠った。 「達哉さん、明日大阪に戻られちゃうんですか? あ、でもそうですよね。お仕事されてるんですもんね。すみません、お休みのあいだ、ずっと僕に付き合っていただいて」 「あ、いやっ! それは全然!」  ほらぁ、あんたがそげな態度やけん、と優子に言われて、達哉は慌てた様子で両手を振った。 「むしろ俺も大人になって再会できち、いろいろ話せち楽しかったし。それに作った料理まで食べさせてもろうて役得やったっちいうか、逆にこっちからやらせてもろうたようなもんやったっちいうか……」 「そうそう。莉音ちゃんの送り迎えん話したら、ほいだら自分がやろうけって、こん子から言い出したんよ。どうせ暇だしって言うて」  優子の言葉に、達哉はうんうんと頷いた。 「やけん、莉音くんな気にせんで大丈夫やけん」 「莉音ちゃんなむしろ、達哉ん希望叶えてくれたっちゃがねえ」 「え?」 「ちょっ……、おふくろっ!」 「こん子ね、莉音ちゃんの料理が食べとうて帰ってきたと」 「母ちゃんっ! なんでそれ、いま言うんちゃっ!!」  叫んだあとで、達哉はしまった、という顔をした。 「いやっ、あの莉音くんっ、そげな――そういうんじゃなくて……いや、違っ…くはない、んやけど、その……っ」 「あ~、ガラにものう照れちょるよ、こん子。やっぱし莉音ちゃんな、初恋ん相手やかぃねえ」 「だから、マジでそげなんやめろってっ!」 「え、なになに? なんかいま、楽しそうな話題聞こえた気がするんやけど」  達哉と優子の後ろから、数名の職員が近づいてくる。達哉は真っ赤になってあたふたと弁解した。  賑やかなその様子を、莉音は笑いながら見守っていた。

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