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第9章 第2話(2)

 わけがわからないまま茉梨花のあとにつづいて階段を下りていった莉音は、先程写真撮影をした庭先に繋がるホールの出入り口のところに佇む人影を見るなり、あ、と声をあげた。そこにいたのは優子だった。 「優子さん……」 「あ~、莉音ちゃん。ごめんねぇ、急に……って、わあっ! てげ綺麗っ!!」  優子は胸のまえで両手を握りしめて感歎の声をあげた。 「なんて素敵! 綺麗よ、とっても。ほんとにおめでとう!」  目の前に立った莉音を見て、その手をとった優子は目を潤ませた。 「ありがとうございます。あの、でもどうしてここが?」  尋ねた莉音に、優子は決まり悪そうな様子を見せた。 「あ~、じつは君恵おばさん――莉音ちゃんのおばあちゃんの髪をセットして、着物着付けたん、あたしん友達やったんちゃ」 「……え?」 「こん近うで美容師やっちょって、昨日、急な飛びこみで予約が入って受けたお客さんがおるんやけど、あんたん知り合いじゃなかったっけ?ってメッセージが来たんちゃ。くわしゅう聞いたら、身内の結婚式が突然決まったっちゅうじゃねえ? そん身内っちゅうんがお孫さんらしいっちゅう話やし、どう聞いてん間違いなく莉音ちゃんのことやわってなって、ここでやっちょるって聞いたもんやけん、いても立ってんいられんごつなってしもうて」  勝手に押しかけてきたりしてごめんねと優子は申し訳なさそうに言った。 「あの、邪魔したりするつもりは全然なくて(ひとっつんのうて)、庭先からちびっと莉音ちゃんの晴れ姿やら、お相手ん方、見えたりせんかなって思うただけやったんだけんど、ウロウロしよっところ、うっかり見つかってしもうて……」  完全に不審者ちゃね、とばつが悪そうに優子は身を縮めた。 「いえ、来てくださって嬉しいです。お知らせしなくてすみませんでした。突然決まったっていうのもあるんですけど、相手の方とは正式に籍を入れられるわけではないんです。その、同性、の方だから……」  後ろめたいわけではないのだが、やはりあらためて打ち明けるとなると、どうしても躊躇(ためら)いが出てしまう。だが、優子は気にしなくていいというように目を細めて頷いた。 「だからほんと、結婚式とか披露宴というわけじゃなくて、内輪だけのお祝いみたいな感じで」 「いいんよ、どげなかたちでも莉音ちゃんが幸せなら、それがいちばんなんやけん」  言ったあとで、優子は「ほんとごめんねぇ」と苦笑いした。 「莉音ちゃんみたいないい子に、お相手がおらんわけねえよね。それなんに、うちんお嫁さんにほしい、なんて無神経なこと言うてしもうて」  嫁ハラだったよねぇなどと言いながら、バッグから取り出した祝儀袋を差し出した。 「これ、そのお詫びっちゅうわけじゃないけど、ほんの気持ち」 「えっ、そんな、いただけません!」  莉音は驚いて胸のまえで両手を忙しなく振った。優子は、いいけんいいけんとその手に袋を押しつける。 「莉音ちゃんにはさんざんお世話になったし、なにより、幸せになってほしいっちゅう気持ちやけん」  ただちょっと外からその姿をひと目見たかっただけなのだと言いながら、こんなふうに祝儀まで用意してわざわざ来てくれたのだと、莉音は胸が熱くなった。 「ほんとにすみません。お世話になったのは、むしろ僕のほうなのに……」  そげなこつねえよぉ、と優子は笑った。 「ずうずうしいんなわかっちょったんやけんど、やっぱし来てよかったわあ。莉音ちゃんのこんげ素敵な姿、生で見れたんやかぃ」 「ありがとうございます」  深々と頭を下げた莉音の後ろから、低い声が「莉音」と呼んだ。その声に莉音は振り返った。 「アルフさん」

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