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第9章 第2話(4)
庭に通じるドアを開けて外に出ていった優子が、大きく呼ばわって手招きをする。その呼びかけに応じて植えこみの向こうから駆けてきたのは、莉音もよく知っている顔触れだった。
「え~ん、こっそり 覗くつもりやったんにバレちしもうた~!」
「ってか、外あっつぅ~っ!」
「ね~。中メッチャ涼し~……って、あ~っ! 莉音せんせ~っ!」
優子に招かれて店内に入ってきたのは、料理教室に参加していたユナたち女子高生グループの三人だった。
「みんな……」
「うそ~っ! 超カッコイイッ!」
「え~っ、せんせえ、メッチャ綺麗! やっぱし今日ん結婚式って莉音先生んことやったぁ!」
あっというまに取り囲まれてキャアキャアと騒がれ、莉音は驚きのあまり立ち尽くす。
「ごめんねぇ。さっき言うた美容師ん友達って、こん子んお母さんなん」
騒ぎ立てるユナたちの向こうから、優子が苦笑いで説明した。
そういえばユナの兄と達哉は同級生だと言っていた。そのあたりでも、親同士の繋がりはあったのだろう。
「莉音先生、いきなり押しかけてごめんなさい。でもユナ、お母さんから話聞いて、どげえしてんお祝いしとうて」
申し訳なさそうに言いつつ、手にしていた花束を差し出す。
「先生、おめでとうございます。これ、あたしらからお祝い」
「え、わざわざ買ってきてくれたの? そんな、一昨日もいろいろもらったのに……」
「あれは料理教室完走したお餞別。こっちは結婚のお祝い! あ、でも大急ぎでみんなで相談して出し合うたけん、全然 たいしたもんじゃなくて」
「うううん、すごく嬉しい。可愛いお花だね。ありがとう」
「生花じゃなくてプリザーブドフラワーにしたけん、長う飾るるよ」
「……ありがとう。大事にするね」
もっとたくさん言いたいことがあるのに、それ以上言葉にならない。莉音は受け取った花束を大切に抱えこんだ。
「ねえ、よかったらあなたたちも、一緒にごはん食べてお祝いしていかない?」
不意に声をかけられて、振り返った少女たちはその相手に喫驚した。
「茉梨花っ!?」
叫んだあとで、あわてて両手で口を押さえる。
「うそっ、なんでっ? なんでここに……っ。ほっ、本物!?」
「ギャ~ッ! メッチャ綺麗っ!! ってか、細っっっ!」
「えっ? 莉音先生とどげな繋がり? ……って、あれ? まさか莉音先生の相手って……っ」
「ユナッ、ユナ、ヤバいっ! 後ろっ! 後ろ見ちっ」
「痛っ。なに、後ろって」
「違うっ、まえっ、まえ! 先生ん後ろっ。国宝級イケメンおるっ」
「はあ? なに国宝級……って、えっ、ヤバッ、だれっ!? すごい王様っぽい人おるっ。ってか外国人っ? えっ、あれっ? 莉音先生とおそろいの服っ? え、待ってっ。なに、どゆことっ!?」
「はいは~い、落ち着いて~」
大混乱で騒ぎまくる少女たちを、茉梨花は慣れた様子でなだめた。
「とりあえず落ち着きましょうかぁ。あなたたちの先生のお相手はあたしじゃありませぇん。そしてあたしは本物でぇす。本物の茉梨花。そこにいる王様っぽい彼のお友達。普通にただのお友達で、やましいことはなにもありません」
「おい、茉梨花っ」
さすがに聞き咎めて口を挟もうとしたヴィンセントをも茉梨花は制して黙らせた。
「あたしもあなたたちとおなじで、大事な友達のおめでたいことを一緒に祝うためにここにいるの。そしてこのお店のオーナーはあたしの知り合い。その関係でお祝いの席を設けてもらってるっていうわけ」
茉梨花の説明を受けた少女たちに広報にいるヴィンセントと交互にまじまじと見つめられ、莉音はどう説明すればいいかわからず口籠もった。
「あの、えっと……」
だが次の瞬間。
「うそ~~~っ! ヤバ~いっ。メッチャお似合いっ!」
「先生んカレシ、ガチ王様やんっ」
「ヤバいヤバいヤバいっ、リアルBLやんっ。超スパダリッ!」
「あ、え? リアルビー……、スパダ、リ???」
「はいはぁい、騒がない騒がない! 静粛に~」
想定外の反応に気圧 されて、戸惑う莉音に変わってふたたび茉梨花が場を仕切った。
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