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エピローグ(2)

『お父様はおふたりのことについて反対されていたんですか?』 『ふたりのことについて、というか、むしろわたしが一方的に血道を上げている状態だったので、いい加減にしないかってすごく怒られました。わたしが彼に迷惑をかけてるのはあきらかでしたから。育てかたを間違えたって、本気で頭を抱えたみたいです』 『それでも最終的には認めてくださった、ということなんですね?』 『さっきも言ったとおり、諦めた、が正解ですね。言っても聞かないので。もちろん、わたしだってなにがなんでも我儘を通そうとしたわけじゃないんですよ? 本気で嫌がられていたら、それはさすがに諦めます。そのへんは一応(わきま)えてるんで』 『そうすると桂木シェフのほうにも、多少なりと茉梨花さんへのお気持ちはあったということでしょうか?』 『そこはわたしが代弁していいことではないので、ここでは差し控えさせてもらいますね。でも、最終的にはこういう結果になったので、わたしの粘り勝ちだったかなって』  ユーモアたっぷりのガッツポーズに、ふたたび笑い声があがった。 『ところで今日は、結婚披露宴会場の下見も兼ねて、このような会見の場を設けられたとのことですが、桂木シェフはご一緒ではないんですね。不躾(ぶしつけ)を承知でお尋ねしますが、なぜ、月島グループ系列のホテルではなく、こちらのヴィンセント・インターナショナルホテルを会場として選ばれたのでしょう?』  ズバリ切りこむような問いかけにも、茉梨花の女王然とした態度は揺らがなかった。むしろ、その質問を待っていたかのような、勝ち誇った笑みをちらりと覗かせた。 『彼も今日は同行するって言ってくれたんですけど、わたしのほうから遠慮させてもらいました。彼、いま故郷の大分県で、念願だった自分のお店をオープンしたところなんです。招待する方々が足を運びやすいよう、披露宴は都内でしますので、なにかあるたびに仕事を休んで上京してもらうっていうのもどうかなって思って。大まかな部分はわたしに任せてもらうことにしました。それから会場についてですが――』  思わせぶりに言葉を区切り、まっすぐにカメラを見据えたところで茉梨花はにっこりとした。 『わたしの軽率な行動のせいで、ヴィンセント社長にはいろいろ迷惑をかけてしまいましたからね。雅弘さんとも話し合ったうえで、お詫びも兼ねて披露宴はこちらのホテルでさせてもらおうってことになったんです』 『失礼ですが、ヴィンセント社長とは、どういったご関係ですか?』 『友達です。すごく仲のいい』 『ではあの記事は、捏造(ねつぞう)だったと?』 『まあ、そうなりますね。というか、わたしが彼に抱きついてキスしちゃったのは本当なんですけど、全然「熱愛」ではないです。さっき、彼とは友達関係だって言いましたけど、ただの友達っていうより、むしろいろんなことを相談できる竹馬(ちくば)の友みたいな感じなんです』 『竹馬の友、ですか?』  そうです、と茉梨花は頷いた。 『男女間で友情は成立するのかって疑問に思う方もいるかもしれませんけど、わたしたちの場合は本当です。お互い、これっぽっちも相手に異性の魅力を感じてませんから』 『ですが茉梨花さんもお美しいですけど、ヴィンセント社長も相当な美男子ですよね。おふたりが並ぶと、すごくお似合いだなって思うんですが』 『あ~、わたし、そういうの全然興味ないです。この業界にいれば男女関係なく、見た目が整ってる人なんて掃いて捨てるほど見てきてるんで。というか、わたしにとっては雅弘さん以上にかっこよくて素敵な人なんていないです。ちょっとやそっとじゃ目移りなんかしませんよ』  片想い歴何年だと思ってるんですか?と自虐たっぷりに言って場を沸かせた。

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