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第1話

ああ、やっぱり真夏に黒のジャケットは暑い。 そう思いながら太陽の熱をたっぷり吸い込んだ服の袖から腕を抜くと、目の前に現れたのは見知った顔で。 「よお、今帰りか?」 「なっ……!」 今しがたこの太一の家から出て歩き出したところで声を掛けられ、驚きのあまり脱いだジャケットを落としてしまった。 いや、まあ、驚いた理由はそれだけでは無いのだけれども。 「なあ、今夜ヒマ?」 「…なんで?」 「誕生日じゃん、お前の」 「だ、から?」 「花火、やろうぜ」 それ。と指さされたのは、左手にぎゅっと握りしめていた紙袋。中には太一の母親から渡された花火が入っている。今日のために太一が用意していたんだと言われてしまえば、受け取らないわけにもいかなかった。 太一とは幼稚園の頃からの腐れ縁というやつで、家も近く、家族ぐるみで付き合いがあるほど仲が良かった。夏休みのど真ん中が誕生日である自分の事を祝ってくれるのも、家族以外では太一だけで、それがものすごく嬉しいんだとはまだ伝えられていないけれど。 渋々頷くと、いつものあのニカッとした笑顔で隣に並んで歩き始める。寄り添うように歩調を合わせてくれるのも、いつも通りで。 夕暮れ時、長く濃い影が伸びていた。

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