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第2話
すっかり日の落ちた部屋の明かりを点け、ジャケットをハンガーに掛けてからどさりとベッドに倒れ込む。
「疲れたろ、ちょっと寝れば?」
「やだ」
「大丈夫だって、どこにも行ったりしねえから」
苦笑する太一の掌が、そっと瞼を塞ぐように覆われる。不思議と全身から力が抜けて、意識が遠のいていく感覚に必死で抗う。
いやだ、寝たくない。
ただその一心でギリギリと唇を噛む。不意に掌が退けられて、眩しさにぎゅっと瞼に力を入れた。
「ったく、頑固なとこはいつまで経っても変わんねえな」
「…太一はちっちゃい頃から何も変わらないけどね」
「そっか?」
「そうだよ。ずっと…あの頃のままだ」
変わった事といったら、身長くらいか。小さい頃から背の高かった太一と、いつも最前列だった健斗。
中学で一気に成長した太一は、人並みよりも高かったものの、高一の夏休みに入ってすぐに止まってしまった。入れ替わりで健斗に成長期がやって来て、今ではすっかり追い付くかどうかというところ。まるで太一の代わりに健斗くんが成長しているみたいね、と太一の母親が言っていたのを思い出す。
「でもやっぱまだオレのが高いっしょ」
「…そのうち追い越すもん」
「ははっ、まあ頑張れよ〜」
ベッドに腰掛けた太一に見下ろされながら、他愛のない話を続ける。話したい事がたくさんあって、時間が足りない。
一体どれくらい喋っていたのか、カーテンの開きっぱなしだった窓の外は真っ暗だった。
「おっ、そろそろいいんじゃね?」
「あ、ホントだ」
ゆっくりと起き上がって薄手のパーカーを羽織る。お気に入りの服なので、着るのがもったいないくらいだった。
「あれ?そのパーカーって…」
「忘れたの?去年の誕生日プレゼントに選んでくれてたんでしょ?」
「そうだけど…着てくれてサンキュ」
「べ、つに…せっかく貰ったんだし、さ」
肌触りの良いパイル織のそれに腕を通し、花火の入った袋を持って部屋を出る。先に太一を玄関先に追いやってから、水を入れるバケツを忘れたのに気付いた。
リビングに戻ると、ちょうど出先から戻ったところの母親に鉢合わせる。
「あ、母さん、バケツなかったっけ?」
「あるけど…健斗、それ、」
「ベランダ?」
「え?あ、そ、そう、ベランダ」
ガラガラと窓ガラスを開けて外に出る。置いてあるバケツを持ってまたすぐに窓を閉め、心配そうな視線を寄越す母親に告げた。
「いつものとこで、花火、して来るね」
「そう…ちゃんと太一君の事、送ってあげてね?」
「…わかってる」
靴を履いてドアを開けると、あの笑顔が待っていた。
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