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第3話

「あっ、こら!振り回すな!」 さっそくロウソクに火を灯して、花火のパッケージを開ける。毎年同じような子供向けの花火だったが、健斗にはそれでも十分に楽しめる。 手持ち花火の先端に、ロウソクから火を移す。すぐにそこから火花が噴き出して、眩しい光になった。 その花火をくるくると回すのがいつの頃からか楽しくなってしまい、子供の頃はこうしてよく親に怒られていた。 「なんだよ、太一だって前はおんなじ事やって怒られてたじゃん」 「おっ、オレはいいんだよ!」 あっという間に炎の色が移り変わり、そして勢いが収まって、最後は小さくなって消えた。水を張ったバケツに突っ込むと、また新しい花火に火を点ける。 黙々と次から次にカラフルな火花を散らし、もともと少ない量だったのもあり、すぐにあと数本しか無くなってしまった。 「健斗、宿題終わったか?」 「…まだ」 「ったく、今年は一人でちゃんとやれよ?」 「……わかってる」 じっと見つめる先の炎の色が移り変わるのと共に、つう…と健斗の瞳から雫が頬を伝い落ちた。 それを綺麗だと思いながら太一が手を伸ばし、そして止める。 「あのさ……1個だけ、言い残した事があってさ、」 「…うん」 「…好きだよ、健斗」 「…うん」 「……ごめんな」 「…うん」 最後の一本の花火は、今までのものと少し違い、数分間に渡り輝いていた。 シュー…という音からパチパチと爆ぜるような音に変わり、焔の色も変化していく。その度に、今まで二人で過ごした思い出が頭を過る。 「パーカー、よく似合ってる」 「…今日、やっと着れた」 「そっか。花火は母さんが渡してくれたんだろ?」 「湿気ってるかもって言ってたけど」 一年前に太一が用意していたこの花火は、今日まで使われる事がなかった。主人のいなくなった部屋にずっと置かれたままだったそれを、太一の母親が健斗に渡してくれたもの。 昼間に久々に訪れた太一の部屋は綺麗に整っていて、誰にも使われていないのが明らかで。そん場所にはいたくなくて、すぐにでも出て行きたかったのに出来なかった。 机の上に飾られた写真は、いつか二人で撮ってもらったもので、二人で並んで、二人で笑っていた。 「いつまで経っても、泣き虫なのは変わんねえなあ」 「…誰のせいだよ」 「オレのせいなの?」 「当たり前だろ」 グス、と健斗が鼻をすする頃、焔の勢いが弱まってきて、終わりが近い事を予感させる。 「誕生日おめでとう」 「…うん」 「去年、言えなくてごめん」 「…うん」 「笑ってる健斗が好きだよ」 「……うん」 健斗の足元にポタリと落ちた雫が、地面に吸い込まれていく。 「好きだよ、太一…ずっと、好きだから」 「サンキュ。すげえ嬉しい」 あの頃と変わらない笑顔が近付いて来て、ゆっくりと閉じた健斗の瞳から止め処なく溢れ出す涙。 そっと唇が重なった瞬間に、焔が消えた。 「っ、た、いち……っ!」 堪らずに嗚咽を漏らす健斗の側には、もう誰もいない。 小さなロウソクの炎だけが、寄り添うように揺れていた。 終

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