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第12話
月曜日。登校すると何故かチラチラと見られている気がする。
「春樹くんおはよー。これあげる、体大丈夫?」
「え?はい、おはようございます……あの、これ何ですか 」
片桐先輩のクラスメイトにエナジードリンクを渡された。何ですかこれと聞いても何も答えてくれず、途中合流した友人らしき先輩と階段を登っていった……。
とりあえずカバンにもらったものをしまい、教室に向かう。なんなんだろうと思いながら教室の扉を開けると視線がこちらを向いた。……なんかデジャブを感じるような……
「おはよー朝倉。体大丈夫?」
「大丈夫だけどなんで?さっき下で先輩にも聞かれた 」
「だってさぁ……なぁ?」
友人の安達と神崎は言いにくそうに目配せをしている……。なんかこれ前にもあったような……?
「…………あのさ、それって片桐先輩と何か関係ある話?」
「あるも何も、金曜に片桐先輩が朝倉ん家に泊まったんだろ?そんで色々いるだろってドラスト行ったらしいじゃん 」
「片桐先輩がな 」
「んでさぁ……お前言えよ 」
「なんで俺が……」
何やら押し付けあっている。言いたいことはわかるが……キスまでしかしてないのに貫通したとか考えられるのが嫌すぎる。キスしてるのも大概だけどさ。
「残念ながら菓子パしてそのまま寝たよ。妄想逞しいな本当 」
「えっマジで?」
「マジ。ていうかおれ本当にそういうの全部駄目だから 」
二人とも「そういうの……」と何か考えるようにぼうっとしてこちらを見つめた。まさか片桐先輩のように遊んでる側と思われていたのだろうか。
「なんか意外〜……朝倉身長高いし見た目派手だし、割と慣れてるもんだと 」
「失礼な……。見た目だけだよ 」
「それな。まさか陰キャ寄りとは思わなかった 」
すぐに同意した神崎をこづくと安達が口を開いた。
「でもほんとさぁ、ピアス多いしピンクのメッシュ入れてるし割と派手じゃん。最初陽キャかと思ったら意外とそんなだし 」
「ああ……うん。ピアスは中学の頃イキってた時期あって……」
「メッシュは?」
「……なんで入れるようになったんだっけ 」
なんだったかなーと思い出そうとするが本当に思い出せない。何も理由は無いのかもしれないと思った瞬間……
『似合ってんじゃん。ずっとそれで居ろよ 』
「……なんか嫌なこと思い出した気がする 」
中学の頃の二個上の先輩……というか、元彼。そうだ、なんか染めてもらって、似合うって言われたのがすごく嬉しくて、伸びてきたらずっと染め直してるんだった……。
「あー……なんか頭痛くなってきた 」
「寝とけ寝とけ。先生来たら起こしてやるから 」
「いや寝ないから 」
寝ろーと無理やり寝かせられるのを止めていると予鈴が鳴った。今日は来なかったなと片桐先輩のことを考えたが、同時にシャンプーのにおいと唇の感覚を思い出す。頭を軽く振って考えるのをやめた。
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その日の放課後。本日一度も会わずにメッセージだけで『今日放課後残れる?』とやりとりをして、既読だけつけて空き教室へ。スマホをいじりながら少し待つと、扉が開いて片桐先輩が入ってきた。……なんか不機嫌そうだなぁなんて考えて頬杖をつき、隣に座る片桐先輩を見つめる。
「……なんか春樹、機嫌悪い?」
「片桐先輩こそ。おれ別に機嫌悪くありませんよ 」
「俺も別に。……強いて言えば、全然春樹に会えなくてちょっと寂しかった 」
「付き合ってるわけでもないのに 」
「だからだよ。付き合ってないから逆に寂しい。……なあ、春樹。俺四月の頭に付き合わないか聞いたじゃん 」
あ、これ告白されるやつだ。
改めて意識すると、嬉しいことのはずなのに恋人というものに嫌な思い出があるからか胸が苦しくなる。
「ちょっと、改めてまた考えてみてほしい。あの時は顔が可愛いからってだけで告白したし、なんなら多分恋人っていうか……セフレの誘いだった気もする 」
「正直ですね 」
「うん。だからさ、春樹 」
「無理です 」
「まだ何も言ってないんだけど?」
「言うことわかってるからもう断るんですよ。……本当におれ、そういうの全部無理なんで。付き合ってもキスもセックスもできない 」
「一昨日めっちゃしてたじゃん……」
不服そうなぼやきを無視して夕焼けが差し込む窓の外を眺める。グラウンドでは陸上部がトレーニングをしていて……ああ、そういえばあの先輩も中学の頃は陸上部だったなぁ。
「ねえ、片桐先輩。おれのメッシュどう思います?」
なんて、答えに困るような質問を投げかけた。わざわざここだけブリーチして、色を乗せて、髪が伸びてきたらまた入れ直して……面倒だし全て切り落として無かったことにすればいいのに、やめてしまうと自分の一部がごっそり消えてしまう気がする。
「俺は似合うと思うけど 」
「……そっか 」
一瞬片桐先輩の『あ、答えミスった』というような表情を見て、再度窓の外に目をやった。
「『先輩』が似合うって言うなら……まだ染めたままにしてていいかなぁ 」
きっとあの人も同じように『似合う』と言う。独占欲ばかり強くて、たまに自己中で、それでもおれに真っ直ぐ『好きだ』と言うような先輩。……どっちの先輩もきっと、高校を卒業しても忘れられないだろうな。
「……なあ、春樹 」
ああ、案の定だ。わかってるのに振り向き唇が重なる。逃がさないと告げるようにがっしりと手が後頭部に回され、軽く開けた口に舌が滑り込む。軽く舌を吸われ、歯を立てられれば小さく体が跳ねた。口の中で鳴る水音と時折離れ、聞こえてくる吐息の音が一昨日の感覚を呼び覚ます。
「……やっぱ、キスはできんじゃん 」
ちゅぷ……と音を立てて離れた口が閉じられない。うっすら目を開けると「まだしたい?」とニヤついた表情の片桐先輩が見えた。また顔が近づき、唇が重なって———目を閉じて、腕を先輩の背中に回した。
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