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面倒

追い打ちをかけるように、今度は着信が鳴る。 一度切れても、ほんの数秒後にはまた着信画面が表示される。 ――拒否。 ――また着信。 ――拒否。 ――また着信。 まるで逃がす気はないと言わんばかりだ。 澪は無言のままスマホを睨みつけた。 周囲からは面白がるような視線が集まっていた。 「出ないんですか?」 有沢が興味津々といった様子で身を乗り出す。 「でない」 即答だった。 だがその直後。 まるで返事を待っていたかのように再び着信が鳴り響く。 こめかみがずきりと痛む。 静かに舌打ちを落とし、澪は乱暴に通話ボタンを押した。 「うるさい」 開口一番、それだけだった。 『やっとでた、おそい』 耳元から聞こえてきた声は妙に機嫌がいい。 『会いたかった』 「切るぞ」 『待って待って』 軽い調子の声に周囲からくすくすと笑いが漏れる。 その時だった。 横から有沢がひょいと顔を寄せてきた。 鬱陶しいくらい近い。 止める間もなかった。 「俺めっちゃファンなんです!」 弾んだ声が店内に響く。 その声に通話の向こうは静まり返った。 背筋を冷たいものがなぞる。 ――嫌な予感がした。 『だれ』 低い声だった。 ついさっきまでの軽さが綺麗になくなっている。 澪は思わず目を閉じた。 「有沢傑です!ファンです!」 『へーありがとね』 返ってきた声は柔らかい。 柔らかいはずだった。 けれど、澪は知っている。 その声の奥にろくでもないものが混じっているということを。 有沢は気付かない。 その様子を見ながら澪は深くため息をついた。 とてつもなく面倒な予感がする。 『で』 ふいに声の温度が変わる。 『その有沢くんって』 静かすぎるほどな声だった。 『なんで澪の隣にいるの?』 その瞬間、有沢の笑顔がぴたりと止まる。 澪はゆっくりと天井を仰いだ。 「歓迎会なんで」と有沢は空気を読まないままあっさりと答えると、『へえ』と短い相槌だけが返ってきた。 それだけなのに妙な圧があった。 有沢もさすがに何かを感じ取ったのか、小さく首を傾げる。 『仲良いんだ』 穏やかな声のはずなのに澪の眉間の皺は深くなる。 「よくない」と即答すると周囲からは笑いが起こる。 これ以上、会話を続ければ誤解を招くと思った澪は通話を切ろうとした。 その瞬間だった。 『澪』 名前を呼ぶ声だけが少し低くなる。 『終わったら連絡して、絶対に』 有沢が隣で「え?」と瞬きをする。 澪は無言のままグラスを傾けた。 ――ものすごく面倒だ。 『待ってるから』 その一言を最後に通話は切れた。 静かになった画面を見つめながら、澪は盛大に舌打ちを落とす。 なぜか周囲まで気まずそうに黙っていた。

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