33 / 33
面倒
追い打ちをかけるように、今度は着信が鳴る。
一度切れても、ほんの数秒後にはまた着信画面が表示される。
――拒否。
――また着信。
――拒否。
――また着信。
まるで逃がす気はないと言わんばかりだ。
澪は無言のままスマホを睨みつけた。
周囲からは面白がるような視線が集まっていた。
「出ないんですか?」
有沢が興味津々といった様子で身を乗り出す。
「でない」
即答だった。
だがその直後。
まるで返事を待っていたかのように再び着信が鳴り響く。
こめかみがずきりと痛む。
静かに舌打ちを落とし、澪は乱暴に通話ボタンを押した。
「うるさい」
開口一番、それだけだった。
『やっとでた、おそい』
耳元から聞こえてきた声は妙に機嫌がいい。
『会いたかった』
「切るぞ」
『待って待って』
軽い調子の声に周囲からくすくすと笑いが漏れる。
その時だった。
横から有沢がひょいと顔を寄せてきた。
鬱陶しいくらい近い。
止める間もなかった。
「俺めっちゃファンなんです!」
弾んだ声が店内に響く。
その声に通話の向こうは静まり返った。
背筋を冷たいものがなぞる。
――嫌な予感がした。
『だれ』
低い声だった。
ついさっきまでの軽さが綺麗になくなっている。
澪は思わず目を閉じた。
「有沢傑です!ファンです!」
『へーありがとね』
返ってきた声は柔らかい。
柔らかいはずだった。
けれど、澪は知っている。
その声の奥にろくでもないものが混じっているということを。
有沢は気付かない。
その様子を見ながら澪は深くため息をついた。
とてつもなく面倒な予感がする。
『で』
ふいに声の温度が変わる。
『その有沢くんって』
静かすぎるほどな声だった。
『なんで澪の隣にいるの?』
その瞬間、有沢の笑顔がぴたりと止まる。
澪はゆっくりと天井を仰いだ。
「歓迎会なんで」と有沢は空気を読まないままあっさりと答えると、『へえ』と短い相槌だけが返ってきた。
それだけなのに妙な圧があった。
有沢もさすがに何かを感じ取ったのか、小さく首を傾げる。
『仲良いんだ』
穏やかな声のはずなのに澪の眉間の皺は深くなる。
「よくない」と即答すると周囲からは笑いが起こる。
これ以上、会話を続ければ誤解を招くと思った澪は通話を切ろうとした。
その瞬間だった。
『澪』
名前を呼ぶ声だけが少し低くなる。
『終わったら連絡して、絶対に』
有沢が隣で「え?」と瞬きをする。
澪は無言のままグラスを傾けた。
――ものすごく面倒だ。
『待ってるから』
その一言を最後に通話は切れた。
静かになった画面を見つめながら、澪は盛大に舌打ちを落とす。
なぜか周囲まで気まずそうに黙っていた。
ともだちにシェアしよう!

