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新人②

結局、断ることができなかった。 仕事終わりの会社員たちで埋まった店内は、熱気と喧騒に満ちている。 あちこちで笑い声が弾け、グラスの触れ合う音が絶え間なく響いていた。 澪は窓際の席に腰を下ろし、手元のグラスへ静かに口をつける。 本当ならこの場にいるはずではなかった。 適当な理由を並べて早々に帰るつもりだった。 「一之瀬先輩!!こっち空いてますよー!」 歓迎会が始まる前から、有沢に見つかってしまった。 そして気付けばこうして席に着いている。 「飲んでますー?」 「見ればわかる」 「ですよね」 有沢は悪びれる様子もなく笑った。 その無邪気な笑顔に、澪は思わず肩の力を抜く。 相変わらず距離が近い。 当然のように隣へ腰を下ろす姿を横目に見ながら、澪は小さくため息をついた。 その時だった。 机の上に伏せていたスマホが震えた。 何気なく視線を落とした澪は、表示された名前を見てわずかに眉を顰めた。 画面に表示されているのは仁都の名前だった。 《澪きゅーん》 《会いたいよー》 《なにしてんの》 《無視?》 《ずっと無視する気なら家行くよー》 立て続けに送られてくるLINE。 そっとスマホを机の上に伏せる。 だが、数秒も経たないうちに、再び震える。 澪は思わずこめかみを押さえた。 「一之瀬先輩?」 隣から有沢が声をかけてくる。 「なんでもない」 その言葉が終わるのと同時に、また通知音がなった。 一度。 二度。 三度。 途切れる気配はない。 さすがに周囲も気付いたらしい。 「えーまさか彼女ですか?」 誰かが面白がるように笑った。 澪は即座に首を振る。 「絶対にない」 食い気味の否定だった。 その反応がかえって怪しく見えたらしく、周囲からはさらに笑いが起こった。 「怪しいー」 「その否定の仕方は余計にねー」 好き勝手な言葉が飛び交う中、澪は深いため息をついた。 その時だった。 隣にいた有沢が身を乗り出し、ふとスマホの画面へ視線を落とす。 「あ」 何かを見つけたような声。 胸の奥がひやりと冷えた。 嫌な予感がする。 「見るな」 低く牽制するがもう遅かった。 有沢はスマホと澪の顔を見比べる。 そしてどこか信じられないものを見るように瞬きをした。 「え」 小さく漏れた声。 「もしかしてですけど」 数秒の沈黙。 「本人だったりします?」 その一言に周囲の空気がぴたりと止まった。 聞こえてはいけない言葉を聞いたような静けさ。 澪はゆっくり目を閉じた。 最悪だ。 そんな心境とは裏腹に、スマホは空気も読まず再び震えた。 まるで追い討ちをかけるように。

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