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新人
それから数日が過ぎた。
結局、澪は仁都からの連絡を無視し続けていた。
スマホには相変わらずメッセージが届き続ける。
減るどころか、むしろ少し増えているようにさえ思えた。
けれど、澪は開かない。
既読もつけない。
そうしなければ、仕事に集中できそうになかった。
朝の会議を終え、自席へ戻ろうとした時だった。
「一之瀬くん」
上司に呼び止められる。
その声を聞いた瞬間、胸の奥に嫌な予感が走った。
「新人くん来たよ」
そう言って、示された先にひとりの青年が立っていた。
「初めまして!」
弾むような明るい声が、静かな空気を軽やかに揺らした。
青年はすぐに頭を下げる。
「本日からお世話になります。有沢傑です!」
その所作は丁寧で、礼儀正しさが自然と伝わってくる。
第一印象も悪くない。
悪くないはずだった。
「よろしく」
澪が短く返した、その瞬間。
「うわあ、かっこいい」
有沢の目がぱっと輝いた。
まるで、憧れの人物にでも会ったかのような反応に澪はわずかに眉を動かす。
「背高いですね」
近い。 気付けばいつの間にか、一歩分の距離を詰められていた。
澪は眉をひそめる。
「近い」
「すみません」
有沢は慌てて身を引いた。
だが、それもほんの一瞬だった。
「教育係やってくれると聞きました!」
今度は満面の笑みを浮かべたまま、ぐいっと身を乗り出してくる。
人との距離感を知らないのだろうか。
澪は早くもこめかみの奥に鈍い頭痛を覚えた。
その様子を見ていた上司が、堪えきれず吹き出す。
「相性抜群」
「嫌です」
即答だった。
その横では、当の有沢だけが楽しそうに笑っている。
澪は小さくため息をついた。
どうやら、先がおもいやられそうだった。
だが、その予感は半分だけ外れることになる。
有沢は仕事を覚えるのが驚くほど早かった。
一度教えればすぐに理解し、同じ説明を二度求めることはない。
わからないことがあればまず自分で調べ、それでも解決できない時だけ質問に来る。
新人と思えないほど容量がよく、周囲も感心するばかりだった。
「よーし!明日は有沢くんの歓迎会するぞー!」
そのひと言が投げ込まれた瞬間、静かだったオフィスの空気がざわつきだす。
「店予約するぞー!」
「よっしゃー!!!!」
あちこちから声が飛び交い、仕事終わりの疲れも忘れたように話題が広がっていく。
その中心で有沢は少し照れたように笑いながら頭を下げていた。
「ありがとうございます!」
屈託のない笑顔に、さらに笑い声が零れる。
澪はそんな賑わいを横目に見ながら、静かにパソコンを閉じた。
「一之瀬先輩も来てくださいね」
不意に向けられた真っ直ぐな視線と、まるで逃げ道を塞ぐような無邪気な笑顔に思わず眉を顰めた。
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