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プロローグ

 澄んだ空気と一面に広がる海。陽の光に反射してキラキラと輝く水面を見て深呼吸をした。後ろを向くと、海沿いに道路が伸びている。その向こうに広がっているのは住宅街と、客の8割を常連が占めるような個人営業の飲食店。越してきた泉崎(いずみざき)町は、沢山のビルが建つような都会ではないが、ド田舎に比べればそれなりに栄えているところだった。輝かしい高校生活を始めるには適している場所だろう。  朝日がまだ顔を出しきっていない。空気がひんやりと冷えていて、もっと来てこれば良かったと後悔しながら、薄手のパーカーの襟を掴んでブルッと身震いした。波打ち際を歩いてみるが、ザーッという波の音に足音がかき消され、自分の体の形がないような、妙な浮遊感を覚える。ふと後ろを向いてみると歩いてきた道にはくっきりとスニーカーの痕が残っていて、歩いたんだなぁ、なんてつまらない感想を呟いた。  ほとんどの音が吸収されて、耳に残るのは波の音だけ。自分では全然そんな気はしないのに、ふと頭に浮かんできた言葉を落とした。 「·····ただいま」

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