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第1話

 ――漆黒の大地を抜け、ひとり、白き魔法使いは進んだ。  重く閉ざされた扉が、ギィ、と(うめ)き声を上げて開く。  玉座の間。    空気は冷たく澄み、音もなく静まり返っている。    その中心、高みにただひとり座するのは――  漆黒の長髪を一括りに携えた、端正な顔立ちの男。    魔王、ラグナ。  魔法使い――リオは、震える手で杖を握りしめた。  その細い指は、強く、固く、けれどわずかに震えている。 「……魔王! 今度こそ……封印してやるッ!」  ――今度こそ、今度こそ……絶対に負けないんだ!    声は勇ましい。  目も、怯まず真っ直ぐだ。  ラグナは、ただ唇の端を吊り上げ、重厚な石の階段を静かに降りてくる。 「――できるものならな」  二人の視線が交錯した。  世界は、いま、静止する。  勝つのは、正義か、悪か――  すべては、これから始まる。  ……そんなはずだった。

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