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最終話

 朝。  まどろむ意識の中で、リオは気づいた。  自分が、ラグナの腕を枕にして眠っていたことに。 「……っ」  一瞬で、昨夜のことが蘇る。  泣きながら、縋って、何度も「好き」と叫んで、全身で、ラグナにしがみついた夜。  ――うそ……あんなこと、全部、言っちゃった……。  鼓動が、ドクンと跳ねた。  胸の奥から熱がこみあげて、顔が、耳まで真っ赤になる。  どうしよう。  どうすればいいの。  どんな顔で、ラグナの顔を見れば……っ。  シーツの中で、そっと身じろぎした。  できるだけ静かに、気づかれないように。  でも、その小さな動きに反応するように、ラグナが、ゆっくりと目を開いた。 「……リオ」  柔らかく笑いながら、ラグナは真っ赤になったリオを、愛おしそうに見つめた。 「く、くそっ! 僕は……お前なんかに負けたりしないんだからっ!」  リオは頬を染めながら、必死に睨み上げる。  ラグナは、余裕たっぷりに口元を吊り上げた。 「素っ裸で言っても、説得力ないぞ」 「う、うるさいっ!」  ボタンをかけ違えたり、呪符や薬草を落としたり、リオはあたふたしながら身なりを整える。  そして、リオはなおも負けじと怒鳴った。 「いいか! 僕は必ずお前を封印する!」 「……今日の夜も来るんだな?」    ラグナの声は、低く、柔らかく。  それでも、どこか射抜くような色を帯びていた。   「い……行くに決まってるだろっ!」  叫んだ瞬間、リオの心臓がドクンと鳴った。  ラグナの視線は、いつもよりずっと優しくて、甘く、どこか名残惜しそうに見えて――  そして、ふっと笑った。   「待ってるよ」    なにか、言い返したいのに、声が出なかった。   「なっ、ななな……!」  とうとう喉元まで、真っ赤に染まる。  不意をつかれて、唇がわなわなと震えた。  けれど、どうしても言葉が出てこなくて、リオは顔を伏せたまま、バタバタと走り出した。 「う、うるさい! うるさいっ! うるさぁああい! 絶対に、絶っ対にっ、お前を倒すんだから! 首を洗って待ってろっ!」  リオは、負け犬の遠吠えみたいに叫びながら、強がりを吐きつづけて走り去った。  瞳の端には、恥ずかしさと悔しさに滲んだ涙がきらりと光っていた。    リオの背を見つめながら、ラグナはそっと呟いた。 「……もう少し、素直になってくれたらな」  と、その時。  リオが走り去った床に、小さな封印の箱がコロン、と転がっているのを見つけた。 「……おっちょこちょいめ」    封印箱を拾い上げながら、ラグナは小さく笑った。    ――落としたことに気づいていないのか? それとも、わざと……?  その真意は、今夜また会えば、わかるだろう。  ラグナは、封印箱を愛おしそうに口付けると、そっと胸にしまった。  封印箱が、あたたかく、リオの存在を確かめるように脈打っていた。      

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