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俺はユンファさんとつながったまま、ふたたび「駅弁」の体位――彼の膝の裏に両方の腕をとおしてひっかけ、両手でその人のお尻をささえて持ち上げる体勢――となり、リビングへとつづく直線の廊下を引き返している。
そうして歩き出した俺に顔を見せてきたユンファさんは、俺のうなじに両腕をかけているままだが、この駅弁の体位にも慣れてきたか、先ほどのように怖がることはなく――むしろ俺の顔を眺められるだけの余裕が出てきたらしい。
……この体位は自然とお互いの顔の距離がかなり近くなる。お互いの鼻先が触れそうなほどの近さだ。そしていまや俺に身をゆだねきっているユンファさんは、俺が歩くその振動にこう嬌声をもらしながらも、その至近距離、恍惚とした甘い眼差しで俺の目を見つめてくる。
「……ぁ…♡ …ぁ…♡ 君のおちんぽ、こつこつ…奥に、当たる…♡ 焦らされてる感じ……はぁ…♡」
「……、はは…もう怖くはないの…?」
俺はそう尋ねながら、少しのあいだ彼のその甘い薄紫色の瞳と見つめあったが――ふと前を見た。もちろん危ないからである。
……いやしかし、どうも彼のその余裕は俺をちょっと困らせてくる。――俺が彼の目から目を逸らしてすぐ、「ん…♡ ん…♡」と彼のやわらかいしっとりとした唇がちゅ、ちゅ、と俺の唇や頬をいたずらにつついてくる。いわゆるバードキスというやつである。
「……ん、…ふふ、…ゆ、ユンファさん、…」
俺は避けようにも避けられない。顔の近さもあれど、何より満更でもないからだ。
「……ね、ソンジュ…?♡」
「…は、はい…?」
俺は歩きながらまたユンファさんのとろめいた両目を見た。彼は俺と目が合うなりご満悦というように、その切れ長の目を細めて幸福そうに微笑する。
「……へへ…♡ ソンジュのおちんちん、ぁん…♡ 僕の子宮にこつこつ当たってるの…。聞いてた…?」
「…ぇ、ええ勿論…、けれどもちょっと、…ごめんね…、……」
そう…しかし、この体位は自然とお互いの顔の距離がかなり近くなる。つまり見つめあうとそれこそお互いの両目ばかりしか見えない、というほどの近距離となるのだが、…だからこそ俺が危ないので前を見る、すなわちこうして俺の目が彼の目から離れると――。
「……ねえ…ソンジュぅ…♡ ん、ん…♡」
ユンファさんはそれを寂しがるように、ちゅ、ちゅと、俺の唇や頬をそのやわい唇でちょんちょんとつついてくる。
……俺はふたたび至近距離にあるユンファさんの両目を見、そして困って笑う。
「…はは…、あの、ユンファさん……?」
……可愛いが、…そりゃあ俺だって叶うなら彼とじっくりと甘く見つめ合いたいところだが、しかし前方を見ないで歩いてはさすがに危ない、彼を抱き上げていてはなおここは安全を取らねば、…全く困ったものである。
「…前を見ないと危ないですから……」
と言う割に俺はニヤけているばかりか、リビングに入ってからはなおチラとも前を見ないで、彼のその薄紫色の潤んだ瞳にすっかり見とれているのだが。
「…ん? ふふ…♡」
しかしユンファさんはそういたずらっぽく笑ってごまかすのである。
「……はぁ、困ったな…、可愛すぎる……」
俺は歩きながら、またユンファさんのその笑顔を眺めつつもそうつぶやいた。
……俺が彼のその可愛いキスに喜ばないはずもなく、また彼も自分のそのキスの可愛さはよくわかっている、つまり俺がそれに喜ぶことも彼はよくよくわかっているのだろう。――そのうえでまるで「何で僕から目を離すの? 僕を見てよ」とでも言うように、何度もその赤い可愛い唇で俺の唇や頬をくすぐってきて、そしてお望みどおり俺がその人の目を見たなら、また俺の両目をそのうっとりとゆるんだ切れ長の両目で見つめてくる。
「君に抱っこされるの…いい…。ぁ…♡ 僕好きかもしれない、この体位……駅弁…またしてね…♡」
と俺の瞳を甘えたような恍惚の薄桃の瞳で見つめながら言うユンファさんは、危険なほどに――惑わす魔性の力さえ感じられるほどに――可愛い。俺は立ち止まった。
「……、勿論…だけれど、そういう可愛いことを言われると俺……」
「…何? …ぁ……っ」
ニヤリと若干勝ち気な目をしていたユンファさんが、とたんに――その背を俺にやや後ろへかたむけられるなり、不安げな顔をする。
「……ぁ…ぁ…、やだ、やだ怖い…ぁッ♡」
俺はばちゅんと彼の膣口に恥骨をぶつけた。ユンファさんの背が後ろへかたむくのにともなって、彼の臀部は俺の恥骨との距離をより縮める。いや、俺はあえてそうしてそこの距離を縮めたのだ。――ばちゅばちゅばちゅとこうして腰が振りやすいように。
「…あっ…!♡ あっ…!♡ あっ…!♡ あっ…!♡」
先ほどよりは離れてもなお至近距離にあるユンファさんの表情には、肉感的な悦びとこの不安定な体勢への怯え、しかしこの不安定な体勢を支えている俺にすべてがかかっている、否応なしに俺にすべてを支配されているというマゾヒスティックな陶酔とが繚乱 し、サディストの俺の目で見ればなお不安げながらもそれだからこそなまめかしい表情と見える。
……とはいえ……確かに不安定なこの体勢は彼の不安を誘うに十分だとはいえるが――俺は彼の「構ってよ」という可愛いキスを受けながらも絶えず歩きつづけていたのである。
「……っはは…、困るよ、可愛すぎて…いじめたくなってしまいますから…、…ふふふ……」
と言いながら、俺は上半身を前のめらせて、もっとユンファさんの背を後ろへ倒してゆく。もちろん念のためゆっくりと――しかしユンファさんは「あぁっ怖いぃ…っ」と俺のうなじにぎゅうっとしがみつき、俺の肩のうえに出したその顔、その唇で、
「おっ落とさないで、そういうのは嫌だ、…」
「…えぇ…どうしようかな……?」
なんてユンファさんをからかいながら、俺はもっと前に腰を曲げる。するとユンファさんが、
「…嫌っ…!」
と力強く俺にしがみつきながら悲鳴じみた声をあげた。しかし、
「……はは…まさか落としやしませんよ…」
「……っ、……? ……ぁ…?」
……ベ ッ ド に 背中をあずけたユンファさんが、はたと自分の今の状況をいぶかる。また俺のほうもさなかにベッドに片膝をついていた。――彼は俺の目ばかりを見て、いわば俺にばかり気を取られていたので気が付かなかったのだろう。
その実俺たちはもうベッドまで戻ってきている。
俺はユンファさんの片方の膝の裏から腕を引き抜き、その片腕を立ててユンファさんの顔を見下ろす。彼は目を丸くして俺を見上げながらも、ホッとした顔をしている。
「……ぁ…何だ、ベッド……」
「……ふふ…本当に信用無いんですね、俺……」
まさかこの俺が、愛するユンファさんを床に落とすだなんてあり得ない。たとえ俺の両腕が捥 げようとも、彼の安全のほうを優先するに決まっているだろう。――むしろそれくらいの覚悟もなしに愛する人の体を抱き上げるはずもない。
……しかしユンファさんがムッとして俺を可愛く睨んでくる。
「……悪いが、それは君の日頃の行いのせいだよ…」
「……ふ、おやおや…しかし仰言る通り。まあかといって…俺にはその日頃の行いとやらを改めるつもりも毛頭ないんですけれど…、……」
俺は彼の片方の膝の裏をつかみ、ぱちゅん…っぱちゅん…っと二度ゆっくり、やや幅をもたせて腰を振った。
「…あぁ…♡ ……あ…っ♡」
するとたちまち恍惚とその表情をとろめかせたユンファさんは、俺に奥の溜まりをこすられるたびビクッ…ビクンッと下腹部から臀部を跳ねさせる。
しかし俺が三度目に腰を引いたところで――彼は「ねえ…」と上の俺へ向けて不満げな目をする。
「正常位は後で…。今は騎乗位がいい…」
「……はは、それはどうして……?」
単に気になったのでそう尋ねつつも、俺は引いた腰をさらに引き、つぽんとその人の膣から勃起を引き抜いた。
別にその体位がいいというのはそう拒むことでもないので、それは俺としても何ら構わない。ただユンファさんがその体位にこだわる理由が気になった。――ベッドに乗りあがった俺は、先ほどユンファさんがベッドのうえに放り捨てた銀の手錠と、それの鍵をまくらの下に入れ(さすがにこれを背で敷いたら痛いだろう)、あらためてそのまくらに後ろ頭をあずけ、ベッドの上に仰向けに寝そべる。
するとユンファさんは早速俺の上にまたがってきながら、俺を見下ろしてニヤリと甘く目を細める。
「もうちょっとソンジュの可愛い顔が見たいの。…僕のおまんこで感じている君、凄く可愛いから…♡」
「……はは…、……」
くり返しくり返しこの夢のような展開に喜んでいる俺は、やはり今日のユンファさんはすこぶる甘い。とまた思った。――そして、俺の股間のうえで膝立ちになったユンファさんの片手が、その人の膣口へむけて俺の勃起を直立させる。しかし俺は、
「……ふ…だけれど、まだ挿れちゃ駄目……」
と彼のその黒ニットをまとう細腰を両手で掴み、それ以上その腰が下がれないようにと固定した。
「……え…?」
俺のその意地悪に、ユンファさんが困惑の眼差しで俺を見下ろす。
俺は優しく語りかけるような声でこう指図する。
「俺が“いいよ”と言うまではお預けです。…そうだな…後ろに手を着いて、お尻を着けて…――ユンファさんの綺麗なおちんちんや、おまんこが俺によく見えるように…脚、大きく開いて…?」
それこそ俺の上に乗って俺を支配したい、先ほどの「ユンファお兄さまモード」のユンファさんならば、これに応じるかどうかはわからなかったが――しかし先ほど玄関で、サディストの俺に意地悪をされるマゾヒストとしての悦びをすっかり得てしまった彼は、やや不満げな顔はしたものの――黙って俺のものを手放すと、その手をふくめた両手を後ろに着く。
「……、…」
そして彼は、俺の下腹部にゆるいカーブを描きながら寝た俺の勃起の根本あたりにお尻を下ろす。すると俺のそれは彼の尻たぶに結果としてはさまれる。――さらにユンファさんは、その黒いハイネックを身に着けた上半身を後ろへ斜めらせてから、おずおずとその細長い内ももを大きく開いてゆく。…つまり俺の要望どおり、彼は俺の上でM字開脚をしてくれたのである。
……のみならずユンファさんは、その片頬を体勢的にややすくめられたその肩に寄せると、そのやや斜めからの陶然とした切れ長の涙目で俺を見下ろしつつ、
「はぁ仕方がないなぁ君は…、そんなにお兄さんのおちんぽやおまんこが見たいのか…?」
くぱぁ…と――。
「…でもいいよ、どうぞソンジュくん…♡ ユンファお兄さんのおまんこ、お好きなだけ…♡ じっくりとご覧なさい……♡」
片手の人差し指と中指でひく…っひく…っと開閉している桃色の濡れそぼつ膣口を俺に見せつけてくる。それも彼は薬指と小指とでその小ぶりな白っぽい陰嚢を持ち上げて、よりそのみずみずしい桃色の肉の小さい穴が俺に見やすいような工夫までしている。…やはり一センチくらいの歪なやわらかそうな穴が開いているその膣口は、ゆら…ゆらと誘惑するように小さく上下する彼のお尻にともなって、俺の視界の中で妖しく揺れる。
「…でもお兄さん、このぬれぬれのおまんこに…♡ ソンジュくんのおっきいおちんちん、早く欲しいなぁー…?♡」
と俺を妖冶 に誘うユンファさんの、そのとろめいた切れ長の潤沢な伏し目、その腰のゆらめき、くぱ…くぱ…とひくついている桃色のやわらかそうな肉――そしてその陰茎は縮んでこそいないが、今はその光沢のある濃い桃色の頭を多少もたげている程度に、その薄桃の幹を下向きにしならせている。
「……ねえソンジュ…もうゴム外そ…?」
ふと俺が目を上げると、ユンファさんがその火照った切れ長の目を妖艶に細めて、下の俺に微笑みかけていた。
「…ほら…♡ ソンジュだって…僕のこのぬるぬるのおまんこに、生でおちんちん挿れたいでしょ…? んふふ…責任なんか取らなくていいから、いっぱい中出しして…♡ ……」
そしてお尻を浮かせたユンファさんは目を伏せ、俺の勃起に手をかける。が、
「…だ、駄目、…」
と俺は慌てて彼のその手をつかみ制止する。それが俺の着けているスキンを外そうという素振りだったためである。
「…えー…」
ユンファさんはむっとしてやけに不満げだが。
「馬鹿言わないでください、そういうわけにはいきませんよ。…全く、随分いけないお兄さんだこと…、……」
なるほど、しかしまだ彼には反抗心が残っている。
俺の指図にしたがうなど従順なようでいて、隙あらばまた俺を支配したい、主導権を握りたいという下心、いや、まだ多少俺の上に立っているという優越感が見え透いているこのユンファお兄さんに――俺はさらにこう要求する。
「……、さて、じゃあ次は膝立ちになってくださいます…?」
俺のこのセリフを聞いたユンファさんが、その豊艶 な赤い唇の両端を二ミリほど上げる。彼の耳には挿入の許可と聞こえたのだろう。
――ユンファさんはいそいそと体を起こすと、俺の勃起の上で膝立ちになった。…もちろん俺のあれを挿入の許可と思っている彼のその膝立ちは、なれ親しんだ俺の勃起の長さに合わせてややその膝を開きぎみにしており、それによって腰の位置をやや低めた格好となっている。
まともに俺の上で膝立ちをしても、さすがに彼の腿のほうが長さがあるので、俺の長大なそれを直立させてもなおその膣口には届かないためである。
しかし、そうして準備万端なところ悪いが――。
「……あぁユンファお兄さん、間違ってもそこから腰を落としてはいけませんよ……俺、まだ“挿れていいよ”とは言っていませんから」
「……は…?」
期待を裏切られたユンファさんが落胆に眉尻を下げながら目を丸くした。
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