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未知との遭遇

『亮太。知らない人に話しかけられても、絶対にしゃべっちゃダメよ』  幼い頃に母親から、口が酸っぱくなるくらい言われ続けた言葉。  この年になり彼女の言いつけをちゃんと守っておけばよかったと、今さらながらに僕は心の底から後悔しているところだったりする。 ***  今年の春に大学に入学して、僕は人生初の一人暮らしを満喫中。  多くの大学生がそうであるように、僕も多分に漏れず最近になってアルバイトを始めた。  働いているのは、新宿歌舞伎町近くのコンビニエンスストア。  少し治安が良くない気がしないでもないけれど、普通のコンビニよりちょっと時給がいいのでその誘惑に負けて、僕はここで働くことに決めた。  バイトからの、帰り道。少しでも近道したくて通り抜けようとした路地裏で、僕は世にいう修羅場に出会ってしまった。  そう。ホストらしき金髪碧眼の男が、客と思われるキレイなお姉さんにぶん殴られそうになっているところに遭遇してしまったのだ。  当然僕は見なかったことにしようと思い、最初は彼らのことをスルーしようとしたのだ。  しかし事態はそこで、思わぬ展開を見せる。  なんと殴られた拍子に、金髪男の頭が吹っ飛んだのである。  それから男の頭はくるくると宙を舞い、そのまま地面に打ち付けられたかと思うと、二、三度軽くバウンドした。 「きゃぁぁぁぁぁあっ!?」  悲鳴をあげ、腰を抜かすお姉さん。  そりゃそうだ。こんなB級ホラー映画みたいなことが目の前で起きたら、これが当たり前の反応だと僕も思う。    だけどあまりにも突拍子もない出来事に驚きながらも、僕はただ小さく口を開けることしかできなかった。  基本的に感情の起伏が乏しく、その上ほとんど顔にも出ない。  そのため何を考えているか分からないと、よく言われてしまう。  そんな僕だけれど、これでもいつになくめちゃくちゃ驚いているわけだが。 「わ、私は何もしてない! 知らない!」  正気に戻ったらしいお姉さんは早口でそれだけ言うと慌てた様子で立ち上がり、そのままヨタヨタしながら逃げていってしまった。  え……。もしかして僕は、殺人事件の目撃者になってしまったのだろうか?  だけどあの女性は、素手で男の頬を叩いただけのように見えた。  それだけで、人間の頭がふっ飛ぶことがあるだろうか?……絶対にないよな。  やや冷静さを取り戻し、警察に通報するかどうか本気で迷っていたら、ド派手な白いスーツに身を包んだ男の体が頭とは逆方向に向かい走って逃げ出した。 「え……? 今の、なに……」  さすがにやっぱりこの状況は、異常過ぎる。いっそ僕もこの場から、逃げ出してもいいだろうか。    その時である。肉体と離れ離れになった男の頭部は、ゲラゲラと笑いながら言った。 「うっわ、サイアク! 俺の体、逃げちゃったし! やっべ、俺大ピンチじゃーん」  えっと……。これホント、どういう状況だよ?  逃げ出すことも、叫ぶこともできず、その場に残された男の頭部をガン見する僕。  するとその金髪の男の頭が、あろうことか僕に向かい語りかけてきた。 「ねぇねぇ、そこのお兄さん。見ての通り、俺は今めちゃくちゃやべぇ状況なのね? だから、すっごく言いづらいんだけどさぁ……。俺のこと拾ってくんない?」

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