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第1話
刈谷 圭吾。年は27歳。まだ若い。大きいとは言えない会社で、雑務含めて身を潜めるように働いている。血液型はA型で、好きな食べ物はタコ焼き。誕生日は教えてもらえなかった。彼の事で知っている情報はそんなものだ。俺はそんな彼を後ろから抱いた。
俺は、刈谷くんのストーカーさながらに彼をいつも眺めている。なんなら、付け回している。けれど彼は、俺を一度も振り返る事はなくせっせと仕事を熟し退社してしまう。重いストーカー故に、俺は帰路も付け回す日がある。刈谷くんは、隠れもしない俺の尾行に勿論気付いている。無視だ。完全に俺を無視している。声を掛ければ、極最低限の返答はくれるが、お誘いに関しては今の所全敗。初手の食事も、映画も、ゲーセンも、ショッピングも、巧妙に仕事の付き合いと宣った居酒屋連れ込み作戦もNOだった。
だと言うのに刈谷くんは、家までズルズルと着いてきた俺を、すんなり部屋に通してしまうのである。玄関のドアが閉じると同時に抱き着いても、まるで俺などそこに存在していないかの様な所作で、自然と仕事スタイルからホームスタイルにチェンジを始める。俺という透明人間を部屋に置き去りにして、バスルームに行ってしまうのだ。
初回は相当に驚いた。自分でついてきたというのに、刈谷くんの思考を疑ってしまうほどだった。無防備だ。ここにきてあまりにも無防備過ぎる。迂闊にも程があるだろうと…。
刈谷くんの部屋は殺風景過ぎる。生活に必要最低限の物しかなく、テレビがない。いつ訪れても、不気味な程に整然と片付いていて生活感もない。もしや潔癖なのかとも思ったが、透明人間(俺)を部屋に放置しても特に気にする素振りもないので違うようだ。
部屋での過ごし方を観察した結果、刈谷くんは娯楽といわれるものに興じないので、手持ち無沙汰になると家事や整頓に走る傾向にあるようだ。何もかもがストイック過ぎて、何故か俺が泣きたくなる。
今日も押しかけた俺をあしらうでもなく、刈谷くんは自分の時間を過ごす。風呂から上がって髪を乾かして、冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出す。
それが合図のつもりで、俺は刈谷くんをベッドへ引き倒した。
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