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第2話

随分前から、視線を向けられていることには気付いていた。細やかに気を配られていることにも、さりげなくそして手厚いフォローを受けていることにも。分かりやすく仕事のミスが激減し、そして円滑になった。自分を甘やかしている相手が誰なのか、ひどく分かりやすい。ほんの少し視線を流しただけでも、彼と目が合う。見られている。見つめられている。どこにいても自分の気配を気にして、存在を消そうと努めてきたはずだというのに、彼はすぐに居場所をつきとめてしまう。特定の人物との接点など持たないようにしてこれまで生きてきた。なのに、彼ときたらグイグイと否応なしに入り込んでくるのだ。これは反応したら負けだ、と思うようになっていた。これ以上こちら側へと入り込んでこないよう、最善の注意を払ったつもりだ。誘いになど乗る気はさらさらない。いつも以上に表情も殺し、応答も出来るだけ省く。これで彼との間の距離を出来るだけ広げようとした。 そうして数か月。彼は今、自分の部屋にいる。何故なのかわからない。説明も理解もできない。彼を部屋へ招き入れてしまったのは、間違いなく自分なのだ。流れで?致し方なく?彼が強引だったから?いや、どれも違う。分かっている。分かってはいるが、消してしまいたい。受け入れがたい。おかしいのは、自分自身だということを。

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