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第11話
「刈谷くん…これは、俺と付き合っていますか?」
事後の至福の微睡みの中、俺は尋ねる。刈谷くんはずっと背中越しで丸まったまま顔は隠れている。
「…………はい」
か細い応答が微かに聞こえる。思案したのであろうという間の後、刈谷くんはくるりと向きを変え、対面する形で俺の腕に収まり直した。
「こ、…怖くない」
以前の夜から数ヶ月かけて絞り出した彼の返事に、俺はジーンとせざるを得ない。なんとなく刈谷くんがひどく苦悩している事に気付いていた。すれ違う度に、悲壮感が増すのだ。縋る様な視線にも勿論気づかない訳がない。そういう所は、全然ポーカーフェイスではない。悩んで、悩んで、悩んで、刈谷くんは俺の元へと戻って来た。彼と来たら、どれほどストーカー紛いの俺を幸せ者に仕立ててしまうのやら。
「そっか…」
「でも、自分は…ダメな、奴だから」
刈谷くんのネガティブが溢れる。自己肯定感が死んでるのは知っていた。言わせない。
「刈谷くん、もう別れないよ。俺は別れない。無理」
先手を打つ。
「………はい」
ストーカーの本領を発揮する度に、どうにも俺の自己肯定感は上がるばかりだ。これも刈谷くんのせいだと思う事にする。悲しく辛く寂しすぎた冷却期間への代償ということにさせてもらおう。
しおらし過ぎる刈谷くんを一晩抱きながら、俺はどうやって彼をこのまま我が家に住まわせるか、その誘導方法を考え込んでいた。あの殺風景過ぎる部屋にはもう帰したくない。この後目覚めた刈谷くんの動揺する姿にワクワクしながら、眠れずに過ごすのだった。
こうして俺は晴れて刈谷くん専属のストーカー紛いな彼氏に昇進した。塩対応もポーカーフェイスも無反応も卒業した彼を今日も甘やかしまくる気でいる。そう、後ろからではなく、前から。
END
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