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第1話
酒の瓶や缶で散らかったゴミ屋敷。
部屋に横たわる男女の死体。
そんな部屋の冷蔵庫の中から赤ん坊のような泣き声が聞こえてくる。扉を開くと、いっそう声が大きくなって聞こえた。
ような、ではなく本当に赤ん坊だった。まだ3ヶ月にも満たないくらいの小さな体。
血まみれになった手で、赤ん坊を抱く。
殺人鬼は、その日赤ん坊を拾った。
******
古びた一軒家の隠し扉に続く地下室。
そこから出ることは俺には許されていない。
小さな体では、反抗する術もなくただ言うことを聞くしかなかった。
「はい、朝ごはん」
「……いただきます」
パンの上に目玉焼きが乗ってある。
皿を床に置かれて、俺は床に座り込んで食べる。
この人は殺人鬼だ。地下室の外で人を殺していることは知っている。名前はハル。それ以外のことは知らない。
たまに血だらけの服で地下室に降りてくる。そういう日はいつも人を殺した後だ。
俺は赤ん坊の時からずっと地下室から出たことは無い。もう7歳になっていた。
足には長い鎖で繋がれていて、いわば軟禁状態。
どうして俺をこんな風に傍に置いているのかは知らない。もしかしたら、いつか自分も殺されるのかもしれない。
殺される前に、1度くらい外に出てみたいな。
それは俺の夢だった。
情報を得られるのは部屋に置いてあるテレビくらいだ。
ハルはテーブルで朝食を食べる。俺がテーブルで食べることは許されない。一度、一緒にテーブルで食べようとしたら酷く殴られた。
ごはん、何時になったら一緒に食べさせて貰えるんだろう。
昼間、ハルは出かける。スーツをきて出かけたから多分仕事だと思う。
仕事の日は帰りが遅い。
夜になっていつもの様に床でご飯を食べる。
風呂は一緒に入る。この時だけ足枷を外さないといけないからだ。
いつもハルが頭や体を洗ってくれる。優しい手つきで、心地いい。この時が一日のうちで1番好きだ。
寝る時は別々で寝るけど、たまに眠れなくてハルのベッドに行くと、困った顔をしながらも結局は一緒に寝てくれる。
「ハルは……どうして人を殺すの?」
沈黙が続いて、返事が無い様子なのでまた目を閉じる。
「こわいから」
ぽつりと答えたハル。なるほど、と思った。そうか、怖いからだったのか。ハルはいつも虐められているのかもしれない。かわいそうなハル。
そう思ってハルの髪を撫でる。
「大きくなったら僕が守ってあげるよ」
うとうとしながらも、寝落ちるまで髪を撫で続けた。
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