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第2話
15歳になった。
未だに俺は地下室から1歩も出ることは許されていない。
「外に出してよ、お願い」
我慢ならなくて久しぶりにそんなわがままを言った。もちろん、ハルは怒った。
「ダメに決まってるだろ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ。久しぶりに聞いたハル怒鳴り声。
昔、テーブルで一緒にご飯を食べようとして、酷く殴られたことを思い出した。
あれは俺が5歳のとき。でも、いまはもう俺も15歳だ。身体も大きくなって、まだハルより背は低いけど、幼い子供のあの時とは違う。
理不尽に閉じ込められ続けて15年。外の景色を1度も見た事がない俺は、もう限界だった。
ハルに頬を平手打ちされる。
ヒリヒリと痛む感覚に、俺の中の何かが切れた。
溢れ出すのは怒り、憎しみ、負の感情。
「痛い……ふ、っざけんな!」
思い切り振りかぶってハルの頬を殴った。
拳がじんじんと痛む。初めてハルに反抗した。心の何かが空いて行く感覚が心地いい。
ハルは驚いた顔で頬に手を当てて俺を見る。
俺は胸ぐらを掴んでもう一度殴った。
「ゆき、っやめ、」
そうだ。あの時酷く殴られて、怖くて、もう反抗してはいけないと思った。
あの時の、いや、この15年間のずっと我慢してきた思いがずるずると引っ張りだされて、渦巻いて怒りとなる。
ハルはなんとか両手で身を庇おうとしゃがんで背を丸める。その手を引っ掴んでまた殴った。
「やめて、っうぐ、がっ」
俺を見る目が潤んでいる。涙が伝っていくのを見て、なんでお前が泣くんだと更にイライラする。
殴って、殴って、何回殴ったかもう分からない。く拳が血まみれになって、ヒリヒリと麻痺して感覚も分からない。
「俺が、こわいかよ、だったら俺も殺せ!」
テーブルに置きっぱなしだった皿をおもむろに掴んで、思い切り頭を殴った。
皿の割れる音と同時に破片が床に飛び散る。
ハルが床に倒れ込んで、動かなくなる。頭から血がダラダラと伝うのを見て、ハッとして正気に戻った。
ハルが死んでしまったかもしれない。そう思うと酷く怖くなった。
ピクリ、と身体が動いたのをみて、心底ほっとする。生きてる。
「っハル!ごめんね、大丈夫?」
頭の切り傷から血が溢れている。急いでタオルを持ってきて圧迫して抑える。
「大した傷じゃないから、大丈夫。……たぶん」
腫れ上がって赤くなった頬に、涙が伝う。
涙を拭おうと触れると、痛い、と言って顔を背けられた。
「ごめん……」
「僕から手を出したから、僕が悪い。……昔、幼いゆきを殴ったこと、覚えてる。あの時も僕が悪かった」
涙をぼろぼろと流しながら謝るハル。
あの時のこと、覚えてたんだ。
「どうやったらゆきが何処にも行かないで居てくれるか、分からなくて、力で押さえつけるしかなかった。僕は、そんなやり方しか分からないから」
「俺は、ハルとずっと一緒にいるよ」
「でも、怖いんだ。きっと地下室から出たら、もう僕の事なんか忘れて、戻ってきてくれないんだ」
震えながら泣くハルが不憫に思えて、頭を撫でる。
こんなにも弱い人を、俺は酷く傷つけた。
その事をとても後悔した。
ハル。可哀想なハル。俺が守ってあげないといけない。俺のいとしい人。
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