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第5話
外に出ると、生ぬるい夕暮れの風が吹いていた。
初めて二人で外に出る。
俺にとっては2度目の外。それでも、1度目みたいな高揚感は今は無い。
ハルの横顔を見つめて、胸がざわつく。
「海見たいって言ってたよね」
そういって連れてこられた海岸沿い。
寄せては返す波の音が沈黙に響いた。
カモメが鳴いて飛ぶ。
「あいつ、どこ行くんだろう」
ふと呟いた俺に、ハルが答える。
「渡り鳥で越冬するために海を渡って日本に来てるんだって。春になったらまた遠い国へ帰るんだ」
こんなに穏やかな顔をして話をするハルを初めて見たかもしれない。
「ねえ、ゆき。ゆきにはこれから色んなものを見て欲しいんだ。すごく遠いところへ行って、色んな人に出会って、すごく辛いことも、すごく楽しいこともあるんだって、知って欲しい」
僕にはそれは耐えられなかったけど。
ゆきなら、大丈夫だよ。
ハルはそう言って、俺を抱き寄せた。
俺より背が高くて、歳も上で、なのにこんなにも弱い人。
可哀想だった。守ってあげなきゃ、そう思った。俺しかいない、そんなこの人が愛しかった。
「ゆき。ずっと、愛してる。大好きだよ」
「ハル……?」
すっと腕を解いて、ゆっくりと離れていく。
何処から来たのか、ぞろぞろと警察の制服を着た男達がハルを取り囲む。
「ばいばい、ありがとう。ゆき」
抵抗もしないハルを荒っぽく取り押さえて、手錠をかける警察官。行くぞ、と声をかけておもむろに連行する。
「まって、待って!ハル!やだよ、俺を一人にするの?嫌だ!置いてかないで!」
追いかけようとすると、他の警察官たちに止められる。
離れていく背中に、叫ぶ事しか出来なかった。
ハル。
大好きな人。
俺を育ててくれた愛しい人。
わかってる。
不器用だけど愛してくれていた事。
歪んでいても、それは確かに愛だった。
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