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第54話

 真柴の唇が桜の胸に当たる直前に、真柴は力尽きるように体をソファに沈めた。  桜が真柴の顔を覗くと、呼吸も落ち着いていて特に異変は見受けられない。  また眠ってしまったようだ。  なんだったんだ?  桜はトレーナーを下ろして身なりを整えた。  もう一度真柴を見ると、瞳から静かに涙を流していた。  その涙があまりにも綺麗で、桜は食い入るように真柴を見つめてしまう。 「おびひと……」  真柴が愛おしそうに誰かの名前を呼ぶ。  真柴を獣のように激変させる「おびひと」とはどんな人なのだろう。  彼氏……なのか?  ちくり、とまた桜の胸が痛んだ。  ハーブティーを飲みすぎてしまったのだろうか。喉が熱く焼けるような、少し胸がつかえるような気がした。

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