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第56話 いっしょに食べる幸せ
「起こしちゃった?」
桜は気遣うように真柴を上目遣いで見つめた。
「いや、自然と目が覚めた。料理も作ってくれたのか?」
真柴がいつものように微笑んで言うと、なぜか桜は気難しそうな顔を浮かべた。
「どうかしたか」
桜はあのときのことを聞こうかどうか迷った。でも、真柴が普段通りに話しかけてくるのできっと寝ぼけて記憶にないのだろうと納得した。
「……なんでもない。運ぶの手伝って」
「ああ」
そう言うと、真柴はお皿に盛り付けられた食事を優雅な足取りで運んでいってしまった。
こういうのってなんか不公平だ。
桜は真柴がいなくなった後で、かああと頬を染めた。
なんで俺が恥ずかしい思いしなきゃいけないんだよ。
真柴と顔を合わせるとあのときの激しい口付けを思い出してしまって、顔からぷしゅうと煙が上りそうになる。
平常心、平常心。
何度か心の中で昔からやっているおまじないを唱えてから桜もリビングへ向かった。
「いただきます」
冷蔵庫に余っていた食材で作ったけど、味には自信がある。かれこれ十年くらいは料理しているからだ。簡単にわかめと豆腐の味噌汁。隠し味で少し甘みをつけるためにみりんを小さじ1杯入れた。だし巻き玉子とにんじんの酢の物。白米はもち麦も入れて炊いて食物繊維が豊富な麦ご飯にした。ぷちぷちとした食感も楽しめるし、なにより腹持ちがいい。
一応冷蔵庫に調味料とかも置いてあったし、真柴も自分で作る気はあるんだろうな……。
真柴の反応を見ながら桜も箸をとった。
真柴は静かに味噌汁を吸い込んでいる。
「こんな美味い味噌汁は初めて飲んだ」
真柴は少しだけ目に光を宿して味噌汁と桜を交互に見てくる。
その視線がやはり恥ずかしくて、桜は目を合わせないように目線をずらした。
「……良かった」
ひいらぎ荘では当たり前のように皆と食事をしていたが、食事をここまで褒められたのは初めてだった。なんだか自分が今まで積み上げてきた経験を褒めてもらえたような気がして、内心むふふと得意顔になってしまった。
「ごちそうさま」
お腹がすいていたからだろうか。
真柴はあっというまに料理を平らげてしまい、作業の続きをすると言って仕事部屋に戻ってしまった。
桜も食べ終わると食器を洗ってキッチンの片付けをした。
ハウスキーパーとしての仕事はもう終わりかな。あとは抱き枕になるだけか。
ちらり、と時計を見つめてその秒針を目で追いかける。
今日は初日で柄になく緊張したけど、家事なら俺は得意だし食事も褒められたし特に大きなトラブルも起きなかったな。
でも、と忘れようとしてもソファに目がいってしまう。
真柴さんすごく男らしかったな……。
普段は中性的な美人なのに。あんな真柴さん初めて見た。
思いだしたらだめだと頭をぶんぶん振る。
早く忘れよう。仕事中は集中しないと。
固い決意を胸に桜は先ほど食事をしたダイニングテーブルをふいた。
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