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第109話 個展『桜、咲く。』 写真家:真柴 睦月
オープン前の個展。百貨店の展示コーナーの一角に桜はいた。目の前に広がる写真の数々。それと、絵も幾つか展示されているようだ。
「早いな。もう来たのか」
そんな桜に声をかけたのは、珍しくスーツ姿の真柴だった。ヘアセットも完璧だ。ヘアメイクさんにやってもらったんだろうなと桜は勘づく。真柴は写真や絵の才能は素晴らしいのに、身の回りの家事が苦手なのをよく知っているから。
「こんなにいっぱいいつ撮ったんだよ」
「桜に気づかれないように、だ」
少し肩を竦めて笑って見せた真柴に、桜は少し笑って画廊に並んだ写真を見つめる。
「わあ、これ懐かしい」
「桜猫のデッサンだな」
「なんか恥ずかしいな、こんな俺ばっかりの写真とか絵が並んでてこれからたくさんの人に見られるって思うと」
桜の笑った顔、怒った顔、映画に感動して泣いている横顔。色んな角度の桜を映した写真が飾られてあった。
真柴の初めての個展らしい。
タイトルは『桜、咲く。』
桜の誕生日である今日、3月3日から1ヶ月間、開催される。
想いを伝えあったクリスマスイブの夜から3ヶ月が経過していた。
「桜。俺の傍にいてくれ。抱き枕兼ハウスキーパーじゃなくて、俺の恋人として」
えらく真剣な顔で言うものだから、桜はふふっと思わず笑ってしまった。つられて真柴も少し表情を和らげる。初の個展前とあって緊張しているようだ。
「もちろん。睦月さんの恋人兼被写体として、一生傍にいるよ。睦月さんの目にいつでも映してね、俺のこと」
「ああ。もちろんだ」
桜は真柴にとって、たった一人の被写体になった。
桜が咲く日まで、あと少し。
『桜、咲く。』
また、新しい春が訪れる。
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