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 僕はそれ以来、よくトイレに行って、ユズルと色んな話をした。  僕たちは決して核心には触れなかったけれど、ユズルが幽霊であることは僕はもうちゃんと理解していたし、ユズルもそれを特段隠すこともなかった。  最初は、もちろん怖かった。  幽霊なんてものと接するのは初めてだったし、それにまつわる噂もいっぱい聞いていたから、何かされるんじゃないかと思った。  でも、そんな不安はそのうちになくなった。  ユズルは、今流行っている芸人の一発ギャグとか、最近出たゲームの話とか、テレビでやっている番組の話を、よく僕に聞いてきた。どんなことを話しても、ユズルは新鮮にそれを聞いた。 「面白いなあ」  ユズルが言う。僕はそんなユズルの話し方を聞くと安心する。ユズルの話し方はとても優しい。そこには悪意が一切見当たらなかった。  ユズルには言わなかったけれど、ユズルが生きていればいいのに、と何度も思った。ユズルが生きていて、同い年で、同じ学校の同じクラスだったら良かった。そうあって欲しいと、何度も思った。  けれど、僕は真実に気づいた。そうしたら、僕たちはこんな関係には絶対にならなかっただろう。  きっと、ユズルはクラスの人気者になって、僕から遠い存在だったに違いない。僕とユズルはまったく違った存在だった。  だけど、僕はユズルを近くに感じていた。体も顔も、何も見たことのない、声しか知らないユズルに、安心感を覚えていた。  僕はその理由を深く考えなかった。  でも多分、それは、彼が死んでいるからだ、と薄々分かっていた。どうしてユズルが死んでいれば僕は安心できるのか。  僕は、そこから先は本当に考えないようにしていた。  ユズルと話しているうちに、日が傾いて夜が訪れようとしていた。 「そろそろ、帰らなきゃ」 「ああ、もう暗くなるね」  ユズルが言う。僕は学生鞄を肩にかけて、 「じゃあ、また」  そう言った。 「うん、じゃあね」  ユズルが言う。僕は少し軋む個室のドアを開けて、トイレを出た。廊下を歩いて、十分距離を取ってから、僕は振り返る。廊下の奥底、誰も来ないトイレ。  ユズルは、そこから出ることができない。僕はそれを考えて、胸がぎゅっと苦しくなる。  僕はユズルに聞きたかった――どうして死んだんだよ。  どうして、自殺なんてしたんだよ。  そんなこと、聞けるわけない。

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