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第20話
キスを繰り返すたびに染谷の体が真木に密着し、熱が広がる。服を着ているというのにその布越しにも染谷の肌を感じてしまって、真木の目はすっかりとろけていた。
「はっ……なんて顔してるんですか」
「……か、顔……?」
「あー、可愛い。……元カレとは、より戻さないんですよね?」
「へ、うん……啓くんには好きな人が居るから、復縁はない、かな……」
「なんだよそれ……真木さん、脱がせますね」
ただ染谷が一人で気にしていただけかと、そう情けなく思うと同時に、こと恋愛に関してはこんなにも狭量になってしまうのかと、自身の新しい一面も見つけて戸惑いもある。
染谷は恋愛自体が初めてだから、ここ最近はずっと初めての感覚の連続だ。
「真木さん、もっとちゃんと食ったほうがいいですよ」
部屋着を脱がせると、先ほどたくしあげたときよりも顕になる真木の体。萎えるどころかむしろ目が離せないのだが、その細さも気になるところである。
浮いたあばらを見下ろして、染谷が心配そうに眉を寄せる。
「……食べてるよ?」
「本当ですか? なんか、一人にしておくの心配なんですけど」
ため息を吐きながらそう言うと、染谷はばさりと自身のシャツを脱ぎ捨てた。
真木とは正反対の、がっしりとしたたくましい体だ。筋肉も程よくついており、異性に人気が高いのも頷ける。この体とその容姿ならば相手など選び放題だろうに、どうして真木を選んでくれたのかと、後ろめたい気持ちになった真木はとっさに目を逸らした。
「真木さん?」
「あ、ごめん。恥ずかしくて……」
染谷はいつまで、一緒に居てくれるだろうか。つい今しがた気持ちが通じ合ったばかりだと言うのに、すでにそんなことが気になって仕方がない。
そんな真木の様子に気付かないまま、染谷は体を倒し、真木の首筋に擦り寄る。
「真木さん、好きです」
染谷の大きな手が真木の体を這う。まるで真木を味わうようにじっくりと巡るその手に居た堪れなくなった真木は、身を捩りながら顔を逸らした。
ちゅ、ちゅと繰り返し唇が首筋に触れる。初めてというわけでもないのに、真木はそんな感触さえ落ち着かない。
「染谷くん……もどかしい……」
「……すみません、でもゆっくりしたくて」
「恥ずかしいよ」
染谷の指先が、胸の飾りに触れた。まるで潰すようにグリグリといじられ、真木の腰もびくりとは跳ねる。もう染谷を触らせてくれと、この恥ずかしさから逃れたくてそう告げようと息を吸い込んだが、残念ながら真木の言葉は発される前に染谷の唇に吸い込まれた。
先ほどよりも情熱的に、貪られるように求められて、呼吸もままならない。真木は応えることに必死で、染谷の手の動きに無防備になっていた。
胸の突起を触っていた手が、体を滑って腰に向かう。口腔を犯される感覚にうっとりとしていた真木は、その手が布ごしに自身の中心に触れたことで、ようやくはたと我に返った。
「ん! ぁ、や、まっ……!」
抵抗しようとした真木を、覆い被さっている染谷が体重をかけて制する。さらに声を出そうにも染谷の唇が追いかけてきたから、声を出すことも叶わず、キスを受け入れることしかできない。
なんとか両手で必死に染谷の体を押し返そうとするが、力で染谷に敵うわけもなく。
染谷は真木の抵抗に気付いているくせに、真木の中心に触れた手を何度もカタチに沿って往復させる。
「んっ、あ、そめ、く……っ」
「はぁ、すげ、男の触って興奮するとか」
「待っ……!」
真木はとうとう顔を背けた。逃げられないと察しての最後の抵抗である。耳まで真っ赤に染めて目を潤ませる横顔に、染谷はきゅっと目を細めた。
「真木さん、それやばいって」
ようやく離れたと思っていた唇が、熱っぽく吐息を吐いたかと思えば、今度は真木の耳殻に触れた。
軽く噛み、舌が這う。ぬるりとしたその感触に真木の腰が震えると、まるで染谷の手に自ら中心を擦り付けるような動きとなってしまった。
「ここ、気持ちいいですか」
すっかりスウェットを持ち上げてテントを張っている真木の中心の先端を、染谷が指先で執拗に擦る。耳元で囁かれるだけでも許容量を超えそうだというのに、さらには弱いところを攻められて、わけも分からなくなってきた真木はひとまずゆるく首を振った。
「……はー……すみません真木さん」
何かを堪えるような声が聞こえた直後、真木の下腹が突然冷えた空気に触れた。脱がされたと気付くのに時間はかからない。慌てて自身の格好を確認した真木の目には、すっかり熟れて先走りを垂らす自身の中心が見える。
「み、見ないで!」
「無理でしょ、見たい。……真木さん、ローションある?」
「う……あの、そこの引き出しに……」
必死に膝を閉じて中心を隠しながら、真木はベッドサイドのチェストを指す。真木の体を見下ろしながらそれを手に取った染谷は、ちらりとローションを一瞥して視線を戻した。
「……これ、使ってますね。元カレとは何もなかったんですよね?」
染谷の低い問いかけに、真木の表情がぎくりと強張る。
「へぇ……優しくしたかったんですけど」
「待って、やだ、」
「聞きません」
ひっついていた膝が、強引に開かれた。しっかりと勃起したそこが、染谷の眼下に現れる。じっとそれを見ていた染谷は、片手で器用にローションを開けると、残っていたすべてを容赦なく中心に垂らした。
「ひっ、待って、いきなりしたらっ……!」
ぬるりと、蕾にまで垂れたローションを塗り込むように、染谷の指がナカへと入る。
真木のナカは熱く、染谷の指を奥へ奥へと誘うように収縮していた。
「……すんなり入るっておかしいですよね。俺、あんたで抜いたとき、男同士のセックスのやり方調べたんで分かりますよ」
ぐちゅぐちゅとローションが粘ついた音を立てながら真木を攻め立てる。手つきに容赦がない。早々に真木の良いところを見つけたその太い指は、見つけた途端にそこばかりを刺激していた。
「いっ、あっ、そ、めやく、そこっ……」
「あんたは大人だから、元カレとよりを戻さなくてもセックスはできるんですか。俺がガキだから許せないんですかね」
「ま、やめ! そこ、そこばっかり、ん、ぁっ」
腰をガクガクと震わせながら、真木は堪えるように体に力を入れている。しかしもつわけもなく、染谷に激しく攻め立てられた真木は、ひと際大きく腰を揺らすと、勃起した中心から白濁を吐き出した。
断続的に腰を震わせ、白濁を吐き終えるとベッドへと力なく横たわる。だらしなく脚を開いていたが、真木の頭は追いついていない。
「……こんな姿、あの人に見せてたんですね」
ピリ、と音がした。呼吸を整えていた真木はなんとか横目に染谷を見ると、すっかり太くなった染谷の中心にゴムが付けられていくのが見える。
真木のものよりも大きなそれに、真木は反射的に膝を閉じた。
「待って……染谷くん、誤解が……」
「なんで閉じるんですか」
ゴムをつけ終えてすぐ、真木の膝はあっさりと開かれた。
「あの人は良くて俺はダメですか。俺のことが好きだって言ったのに」
ぬるぬると、染谷の中心が真木の蕾を滑る。その熱や大きさ、固さまでもがリアルに伝わり、真木はごくりとなどを鳴らした。
「挿れますね」
自身の根元を固定すると、染谷はゆっくりと腰を押し進めた。柔らかな熱が染谷の中心を包み込む。経験のなかった染谷にとってセックスの快感は未知数だったが、どうやらセックスの快感とは、挿入しただけで思いきり腰を叩きつけてやりたい衝動に駆られるものらしい。
深い快感が腰から全身に広がっていく。優しくしたいと思うのに乱暴にしてやりたい気持ちもあって、制御できない感覚が少し恐ろしかった。
「は……やば、真木さん、大丈夫ですか」
乱暴な衝動から目を逸らし、紛らわせるように真木を見下ろす。
真木は、両腕で自身の顔を隠していた。
「どうしたんですか」
「その……染谷くんの、想像より、大きくて」
「……想像?」
「……僕だって、一人でしてたよ。きみだけじゃない。だから、その、啓くんとも、してなくて……」
腕がややズレると、真っ赤になった顔がちらりと見える。潤んだ目で流し見られてようやく意味を理解した染谷は、真木に負けないほどに頬を赤く染めた。
「あっ……ぶな……真木さん、俺、一応初心者なんで手加減してください……無茶させたくないです」
染谷の理性が強くなければ、今の発言で思いきり腰を振っていただろう。ただでさえ挿入している状態だ。ここからは優しく抱きたいものである。
「……いいよ」
くちゅ、とローションが音を立て、微かに腰が律動する。突然の痺れるような快楽に、染谷がぴくりと眉を寄せた。
そんな反応を見て、真木がさらに腰を揺らす。染谷が動いているのではない。真木が腰を揺らしている。
「待って、真木さん……絵的に、エロいです」
「染谷くんの、好きにしていいから」
だから、無茶させて。
か細い言葉が続くと同時、染谷は真木の腰を押さえつけ、ギリギリまで引き抜いた熱を一気に奥まで叩きつけた。
「っ! ひ、あっ」
「はー……分かりました。遠慮なく無茶、してもらいますね」
言い終わるよりも早く、染谷は際限なく感じる快楽を追うように腰を揺らしていた。
それから、二人はどれほど繋がっていたのかもわからない。少なくとも体力のない真木にとってはとんでもなく長く感じたし、途中からは突き上げられる快楽に溺れてあられもない姿を見せてしまった記憶しかなかった。
そんなことを考えていると、眠っていた染谷がゆっくりと目を開けた。じっと見ていたのが恥ずかしくなった真木はとっさに目を伏せる。しかし朝しっかりと目覚めるタイプらしい染谷はすぐに状況に気付き、距離を詰めるように真木を腰から抱き寄せた。
「おはようございます、真木さん」
「……おはようございます、染谷くん」
なんだか気恥ずかしい真木は、顔を上げることも出来ずに染谷の首元で顔を伏せた。
「体痛くないですか」
「う、うん。ちょっと気怠いけど、嫌じゃないから」
「そうですか。それは良かった」
覚醒は早いが眠たいのか、染谷はそれだけ聞くと大きなあくびを漏らし、真木を抱き込んで眠る体勢に入る。
「え、染谷くん、練習は……」
「俺は明日から合流するって監督に言ってあるんで大丈夫です。真木さんも今日は休んでください」
「……まさか、こうなることを見越して……?」
「当たり前じゃないですか。そもそも、あんたが俺のこと好きなのは分かってましたし」
「分かってたの!?」
「確信したのは、あんたが試合見て泣いてた人だって聞いたときですかね。俺が久しぶりにサーブ打ったときも泣いてましたし、俺のこと好きすぎるでしょ」
真木は何も言い返せなくなると、悔しげに言葉をのみ込む。そんな真木の様子を気にしなかったのか、眠たいだけなのかは分からないが、少しの間を置くと、再び染谷が口を開く。
「……俺、本社に戻ろうと思います。今は出張扱いですけど、そのうちしっかり戻って、前みたいに試合に出たくて」
「……うん。それがいいよ」
「はい。だから……あんたにも、本社に来てほしくて」
「……うん?」
「なんか、一人でこっちに居させるの、食生活とか心配ですし。それに、勝手にどっか行ったり、離れたりしそうですし……昨日こっち来るとき、栄田さんに電話で聞いてみたんです、あんたを本社に引っ張れないか。そしたら戻ってきてほしいってアプローチはしてるって聞いて……」
「まっ、待って待って、僕は本社には……」
「分かってます。あんなことがあったんだから、戻りたくないですよね。分かってるんですけど……俺がバレーしてる横にずっとあんたが居るなら、すげー嬉しいって思って……」
言葉が途切れると、少しして、静かな寝息が続いた。昨日は長時間の移動があった上、ほぼ朝方までセックスをしていたから、染谷も疲れていたようだ。
真木が顔を上げると、すぐそこにあどけない顔で眠る染谷が居る。
彼に恋愛経験がないのなら、こんな顔を知るのも真木だけである。それがなんだか不思議で、同時に罪悪感もあり、真木は思わずうつむいた。
「気持ちだけで嬉しいよ。ありがとう、染谷くん」
もう二度と得られないと思っていた幸福を抱きしめて、あと少しだけはこのままでと、真木もそっと目を閉じた。
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