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01 恋愛相談と提案

「僕、実は気になる人がいるんです……」  俺の目の前に座っている東雲律(しののめりつ)が口を開いたのは、全員がタブレットで注文を済ませ、ドリンクバーに行こうと腰を上げた時だった。 「え? ……今なんて?」  おれも(ゆう)も予想もしていなかった言葉を聞き、二人顔を見合わせた。  だって律は、高校生になるまで一度たりとも、異性に興味を持ったことなんて無かったんだ。年頃の男の子なら、あの子が可愛いとか好きとかお付き合いしたいとか、そんな欲望が出てくるじゃないか。なのにクラスメイトが盛り上がっていても、一切興味を示すことはなかった。  その律が、だよ? 「ずっと気になっていたんですけど、やっぱり僕の気持ちを知ってほしいなって思って……」  おれ達が戸惑っているのを全く気にしない様子で、律は話を続けた。  放課後、学校近くのファミレスに集まったのは、おれ、月島湊(つきしまみなと)と、弟の月島湧(つきしまゆう)、そして東雲律の幼馴染の三人だ。  今日は部活がないから、帰りにファミレスに寄ろうぜと、弟の湧から連絡があったのは、昼休み。  特に何があるわけでもなく、ふらりと集まったのだと思っていたのに、律が突然爆弾を落としてきたんだ。 「……でもまぁ、律にもやっと春がやってくるのかもしれないと思うと、オレは感慨深いよ」  早々にこの状況を受け入れた湧は、まるで保護者みたいなことを言う。  そんな湧を見ていたら、おれもこの律から飛び出た恋愛相談の行方が気になり、半分上げた腰を下ろした。 「で、律はどうしたいんだよ?」  グイッとテーブルに身を乗り出すように湧が律に近付くと、律もそれに応えるように顔を近付けた。 「僕は……他の人の前ではうまく話せないから、先輩や湧に相談したいなって思って……」  近付いてきた律を真正面から直視してしまったおれは、思わずうっと目を瞬かせた。  律は、まるで少女漫画から飛び出てきたような正統派のイケメンで、男のおれでも見惚れてしまうほどだ。しかも、頭脳明晰な上に運動神経まで良いときた。  こんな非の打ち所のないスーパーマンのような律だけど、人とのコミュニケーションを取るのは大の苦手だ。まともに話せるのは、家族とおれと湧くらいしかいないと律はいつも言っている。 「そっかそっか。……うーん、なにか良い提案はないだろうか」  湧はそう言いながら、前に乗り出していた身を緩めると、ドサッとソファーに背を預けた。  律も同じタイミングで座り直したから、おれは少しホッと息を吐いた。  イケメンは目の保養だと言うけれど、近すぎる距離で直視するのは、逆に毒のような気がする。  湧は頭をガシガシとかき、おれは唇を尖らせ、二人でほぼ同時にうーんと唸った。 「気になる女の子に振り向いてもらいたいってことはさ、女の子が喜ぶようなことをしてみたら?」 「喜ぶようなこと?」 「例えば、そうだなぁ……。プレゼントをあげるとか?」 「なんか、下心があるようで……」 「──確かに」  湧が出した提案に、律がちょっと申し訳無さそうに答えた。  うん、それはおれも思う。そんなに親しくもない人から急にプレゼントを貰っても、逆に警戒するんじゃないか?  その後も、重い荷物を持ってあげるとか……これはまぁ普通に人助けだな。掃除を代わってあげるとか、購買でお昼を代わりに買ってあげるとか、宿題を代わりにやるとか……っておい、それじゃまるでパシリじゃないか!  おれの脳裏には、律が手もみをしながら媚びへつらっている姿が浮かんできて、思わずぷっと吹き出してしまった。 「なんだよ、オレが真剣に考えてるっていうのに」 「ごめんごめん」 「それなら、兄貴はなんか策があるのかよ?」  湧のその言葉に、再びうーんと唸る。そう言われてしまうと、おれは特に何も思い浮かんでいない。  そんな時、ピロン♪とスマートフォンが鳴った。  普段は消音にしているのだけど、今日は大好きなアニメの舞台挨拶の当落がわかる日だ。すぐ結果を知りたくて、学校を出てからすぐに音量設定を上げていた。  ……あ!  メールを開き、当落の確認をすると同時に、おれの脳裏にあることが閃いた。 「やった当たった! そうだ! その手があったじゃないか!」  おれの口からは、当落の喜びと閃いたって喜びがいっぺんに口に出た。うん、ナイスアイデアが浮かんだぞ!  一人納得して嬉しそうにしているおれを、律も湧もわけがわからないといった様子で見つめている。  そんな二人に、おれはふふんっと鼻高々に究極のアイデアを披露することにした。 「女の子が好きそうなシチュエーションをさり気なく再現して、律に興味を持ってもらうんだよ!」 「好きそうなシチュエーション?」 「そう。題して、少女漫画みたいな胸キュンシチュで、あの子のハートをGETしちゃおう作戦!」 「うわ、ださっ」  意気揚々と声高々に宣言するおれに、湧は冷たい視線とともにぼそっと辛辣な言葉を投げ捨てた。 「それ、良いかもしれないです!」 「え? 良いのかよ?」  おれに辛辣な言葉を浴びせた湧に対して、予想外に話に乗ってきた律は、キラキラと目を輝かせた。 「湊先輩が考えてくれるんですよね? 僕、振り向いてもらえるようにがんばります!」  何故か律はおれの手をガシッと握り、めちゃくちゃ嬉しそうに微笑んだ。

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