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第1話

 なんだってこんなことになっちまったんだか。  家庭教師のバイト終わり、住宅街の中の道を駅へ向かって歩きながら、三上武生(みかみたけお)は小さく息をついた。生徒である中三受験生から告白されたのは、三月(みつき)ほど前のことだ。  告白とかは別にまあ、いい。そんなにめずらしいことじゃない。そういうのは今までにも何回かあった。告白とまではいかなくても、アプローチ的なものは。  でもさすがに、男からってのは初めての経験だった。  ことさら勉強が好きというわけでもなさそうな、母親に言われたから渋々やっているような、どこにでもいそうな一般的な中三男子だと舐めていたのに。 「俺、先生のことが好きなんだよ」  なんて、しごくまじめな顔で件の生徒、瀬尾(せお)直久(なおひさ)は言ってきた。  言われて初めて三上は、自分てそういうことにあんま偏見的なものとかなかったんだなあ、と気づくとともに、ちょっと感心した。つまり同性愛とかそういうの。気色悪いとか、特に思わなかったし。  もし筋骨隆々のマッチョな大男にそんなことを言われたら、筋肉もたいしてないしケンカとか絶対やりたくない系の三上としては身の危険を感じ、一つの部屋にいるのもごめんこうむりたかったかもしれないが、ナオ(と、三上は瀬尾直久のことを呼んでいる)は幸い三上より背も低くてひょろりとした一般的な中三男子の体型だった。いざとなれば押さえこむことだって容易いだろう。  それで、普通にお断りした。ナオは素直にしゅんとしてがっくりとうなだれた。  ただ、その後がまずかった。  勉強する気がなくなった、なんて言うから。  そうなれば家庭教師としての三上の立場も危ういわけで。  それでついうっかり。  了承してしまった。  テストでいい点数とったら、お願い一コきいてやる、なんて。  最初は、一緒にメシを食いに行く、だった。  二回目は、三上の大学を案内する。  ナオは猛勉強したらしい。思いもよらぬ成果を上げて、二度もお願いをきかされた。  そして三度目のお願いとやらは。  見上げれば、晴れた夜空に細い三日月。  もう一度、三上は大きく息をつく。  俺、どうなっちまうんだろ。

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