30 / 30
最終話
「だからここのステップはタ、タタタンで回転するんだ」
「そんな曖昧な言葉じゃわからない!」
「爽ならできる。頑張れ」
「無理だよー」
爽は銀太のそばでメソメソと嘘泣きをしてしまった。銀太は嬉しそうな顔をしているが、これを許してはいけない。
首根っこを掴んで鏡の前に立たせた。
「想像してみろ。目の前には三万人の観客がおまえを見てるんだ。そこでこのステップが決まったらかっこいいだろ」
「そうだけどさ。難しいよ」
「練習すれば大丈夫。何度でも付き合うから」
「……うん」
もう一度音楽を流して踊りだすとつたないなりにもできていた。音楽と動きがピタリとハマる瞬間は何度体験しても気持ちがいい。
「できた!」
「ほらな、じゃあ次いくぞ」
「まだやるの。休憩しようよ」
「ダメだ。この後撮影あるんだろ。それまで振りいれとかないとあとがキツイぞ」
「俺も付き合うから爽も頑張ろう」
「……うん」
爽は相変わらずの練習嫌いでぶつくさと文句を垂れているが、銀太に励まされてどうにか前を向いた。
グループ恋愛に気を揉んでいたが二人はいまのところうまくやれているらしい。
「昴さん、気合入ってますね」
「当たり前じゃん。夢はでっかく武道館なんだから」
「頼もしいです」
「みんなで目指そうな」
「はい」
葉月の笑顔を見ると胸のなかがぽっと温かくなる。
地道に一歩ずつ進むのは辛いときも多い。
努力した分だけ成功する世界でもない。
けれど三人と一緒に乗り越えればなにも怖くない。
前よりもっとチームとしての結束力があった。
「これってどういうことですか!?」
転がるようにスタジオに入ってきた鹿島は週刊誌を広げた。
そこには「熱愛! グループ内での恋愛事情」と銘打たれ、爽と銀太が路上でキスをしている写真が掲載されている。
「この前焼肉行ったやつかな。よく撮れてるね」
「爽、あのな!」
「昴ちゃんは僕たちに意見できる立場じゃないでしょ」
「うっ……確かに」
「まぁいいじゃん。このご時世SDGsとかあるじゃん」
「それを言うならLGBTな」
「そうそう! もういっそBL営業とかもいいんじゃない?」
「いいな」
爽と銀太は盛り上がっていてスキャンダルを気にした様子もない。それを見ていた葉月は額に手を置いていた。
「このグループはスキャンダルが多すぎる」
「大丈夫、大丈夫! 犯罪してるわけじゃないし」
「笑えないわ!」
なにを言っても爽たちには届かないのだろう。きっと明日になったらネットニュースは荒れるはずだ。
でも幸せそうな二人を見ていると大丈夫だろうと思えてしまう。
二人なりに築いた関係があるのだから、外野がとやかく言う必要はない。
「俺もサポートするし、頑張ろうな」
「俺の癒しは昴さんだけです」
大きな身体に抱きつかれて葉月の頭を撫でてやった。犬みたいで可愛い。
「じゃあマスコミ対策しますよ! ついでに新曲のPRとライブの告知もねじ込みましょう」
敏腕マネージャーはすぐさま頭を切り替えたらしい。自分よりずっといい仕事をしている。
「はい!」
三人の返事を聞いて、昴は目を細めた。
ともだちにシェアしよう!

