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第29話
宵の口になるころに解散となった。
泥酔した爽を銀太が寮に連れて帰り、芦屋はスポンサーと会食があるらしい。まだ飲むんですか? と訊いたら「ここでは烏龍茶しか飲んでないよ」と笑っていた。
三人が出て行ったあと、嵐が過ぎ去ったように部屋が散らかっている。
空き箱や缶を葉月と片付けた。なぜか床までベタベタしていて、水拭きもした。一応事務所なのでいつ来客が来るかわからないから清潔にしておく必要がある。
床を丁寧に磨いていると葉月は目を丸くした。
「掃除手慣れてますね」
「前に清掃のバイトやってたからな。それに元々きれい好きな方だし」
「でも確かにいつも服は皺ひとつなくてきれいでしたね」
「まあな」
酒の力もあって葉月とは緊張なく話せている。前のような距離感の近さにほっと胸を撫で下ろした。
ゴミ袋の口を結んで葉月は玄関に運んでくれた。おおかた片付いてふぅ息が漏れる。
「大掃除した気分です」
「だな。てかただ飲んで食ってただけなのによくこんなに散らかせるよな」
「それだけ爽も嬉しかったってことですよ」
「……ならいいけど」
テーブルの縁をなぞり、ちらりと葉月を見上げた。
四年ぶりに会う葉月はぐっと大人の色気があった。髪を短くし、色はシックなグレーカラーだ。さらに鍛えた筋肉が薄いシャツ越しでもわかる。
急に大人びた姿は心臓に悪い。
振付師になると決めたときからホトスプ関連は見ないようにしていた。ネットニュースもテレビもSNSから離れて生活した。
だから葉月の成長過程を見ていない分、刺激が強い。
予想していたよりも遥かにイケメン度が増して困ってしまう。
ホトスプはいまやアイドルという枠を超え、アーティストとして活躍しているらしい。
ダンスの葉月、歌の爽、アクロバティックな銀太のバランスはよく、着々とファンを増やしていた。
昔のような花火のような勢いはないものの、地中深く根を張りファンとの信頼を築き上げていると爽が鼻高々と語ってくれた。
「昴さんも夢見つけられたんですね」
「葉月のお陰だよ」
「俺たちがここにいるのも昴さんのお陰ですよ」
「もちつ持たれつつ?」
「みんなそうやって生きてるんですよ。支えているようで支えられて 俺は昴さんとこれからもずっと生きていきたい」
葉月の言葉の意味がわからず首を傾げると距離を詰められて手を取られた。
温かくて大きな手のひらにとんと心臓が跳ねる。
「ずっと昴さんと一緒にいたい」
心のなかを晒すようなまっすぐな瞳を向けられた。その目にはからかいや軽蔑もない。
ただまっすぐな想いが詰め込まれていた。
だから怖い。腰を引くと手の力が強まる。
「俺は汚いよ」
「昴さんはきれいです」
「またおまえたちを一番にしたくて卑怯なことするかも」
「全力で止めます。もうあんな思いはしたくない」
その一言でどれだけ葉月を傷つけてしまったのだろうかと想像するだけで怖い。
「……今日まで葉月を輝かせるために頑張ってきた」
「知ってます。でもあれから一度もライブに来てくれなかったですよね。そのことにちょっと怒ってます」
子どもみたいに頬を膨らませる葉月に笑みがこぼれた。
四年前のライブの帰りを思い出す。
ーー昴さんも自分の夢を見つけてください
葉月はふわりと笑ってくれ、額を指さした。
「キスする場所はここじゃないとわかってますね」
背伸びをするとそれが合図かのように葉月の顔が近づいてきて、唇にキスをした。マシュマロのように柔らかくて甘い。すぐに離そうとすると後頭部を押さえられ、より交わりが深くなった。
「はづ……んんっ」
閉じた口をこじ開けられ、舌が入ってくる。歯の一本一本を丁寧に舐められるとピリピリした刺激に身体が震えた。
葉月のシャツを皺になるほど握ると唇が離れてしまい、名残惜しく見上げる。
「どうした?」
「だめだ。このままだと最後までしちゃう」
「部屋行く?」
下の階は居住地だ。だがそこに爽と銀太もいる。近くにホテルはあっただろうかと頭のなかで地図を思い浮かべた。
「俺、いま近くのマンションに住んでるんですよ」
「どうして?」
「爽たちの邪魔になるわけにはいかないし」
「邪魔って……嘘!?」
ウインクをする葉月は唇の前に人差し指をおいた。
銀太の想いは知っていたが、まさか女好きの爽が落ちたなんて。信じられない。
「そこちょっと詳しく聞きたい」
「それは今度話すので、いまは俺の部屋に行きましょう」
玄関のゴミ袋を捨ててから部屋に向かう葉月の後ろをついて歩く。
「そういうとこは律儀にやるんだね」
「大人ですから。欲にまみれても理性はしっかりしてます」
「勃起してるくせによく言うよ」
ズボンを押し上げている固いものを触れると葉月は暗がりでも頬を赤らめているのが見えた。
「これは生理現象です!」
「若いっていいなぁ」
「昴さん限定ですよ」
両頬を膨らませて抗議をされてもなにも怖くない。ますます愛おしさが増えてきてしまう。
背伸びをして葉月の耳元に口を寄せた。
「早く抱かれたい」
目を大きく見開いた葉月にもう幼さはない。怒りにも似た表情を向けられ、ぞくりと背筋が震えた。
早歩きでついていくと横断歩道を渡った近くのマンションに着いた。
部屋に押し込まれると乱暴にキスをされた。
口を開けて葉月の舌を受け入れる。絡ませあいながら手は忙しなく服を脱がしにかかっていく。縺れながら寝室へ行き、ベッドに押し倒された。
両手を押さえつけられ抵抗もできない。体重をかけられ、ベッドに深く沈んだ。
「さっきの余裕っぷりはどこいったんだよ」
「昴さんが煽るから悪い」
「ふふっ。可愛いなぁ」
ずっと思っていたことを吐露すると葉月は驚いたような顔をして、すぐに唇を尖らせた。
「それって子どもっぽいってことですか」
「……どっちだと思う?」
顔を横に向け、すぐそこにある葉月の指を舐めると睨まれた。
葉月の欲情した顔にどうしようもなく煽られる。
一見怒っているような表情なのに瞳の奥は自分のことが欲しくて堪らないと訴えかけていた。
八重歯を見せつけられ、首を噛まれた。皮膚が割ける痛みに奥歯を噛んで耐えると耳元に熱い吐息を吹きかけられる。
熱を孕んだ息に下肢がぴくりと反応した。
下着ごとズボンを脱がされ、性急な手つきで性器を扱かれた。乱暴で荒々しい。皮が擦れて痛いくらいなのに葉月の目を見ると感じさせられてしまう。
「んぁ……あっ」
亀頭から先走りが溢れ、茎を濡らすと動きが滑らかになった。葉月は片手で器用にチャックを開け、猛った性器を取り出した。
「両方持ってて」
葉月の手に促され、二つの性器を一つにまとめた。シャツの裾をくわえた葉月が腰を揺らし始める。
銀太仕込みの腹筋は六つに割れて雄を強く感じる。律動させると筋肉がきゅっとしまった。
性器が擦れ合うだけで熱が高められる。
勝手に腰が揺れてしまうと「スケベ」と笑われで、じっと睨みつけた。
「だって……気持ちいい。んんっ」
「目に涙なんて溜めちゃって。可愛い」
「はぁ……好き、葉月」
「昴さんっ……!」
腰の動きが早くなると一気に出口まで駆け上がり、二人同時に果てた。
熱い飛沫が腹にかかる。精液がたらりと垂れる刺激にも感じてしまい、甘い声が漏れてしまう。
「久々だったから結構出ちゃった。はずっ」
「久しぶり……?」
自分と再会するまで付き合っていた人がいても不思議ではない。
これだけ魅力的だし、アーティストとしても伸びしろがある。なにより見た目もいい。
葉月のいいところを挙げたらキリがなく、そんなにたくさんあるのだから不特定多数に好かれて当たり前だ。むしろ芸能人としては必要なことでもある。
(わかってたけどモヤモヤするな)
顔に出ていたのだろう。葉月は表情を緩めた。
「なにを勘違いしてるのかわかりますけど、自慰の話ですよ」
「へ、あ……そう」
「そんなこと言ったら俺の方が嫉妬してますよ。こんな風に腰を揺するのは誰に教え込まれたのかとか過敏なのは誰のせいだとか」
「……ごめん」
そう思われても仕方がないのに自分が嫉妬してしまうなんて小さすぎる。
砂山とのセックスも見られていたのに。自分の立場に置き換えたらもう二度とセックスなんてできないかもしれない。
それなのに葉月は乗り越えてくれたのだ。
違う涙が溢れた。
「すいません。泣かせたいわけじゃないんです」
頬を伝う涙を指でなぞられ、大きな手に自分のものを重ねた。
「好きなのは葉月だけだよ」
「俺も大好き。仕切り直していい?」
「うん」
やさしいキスをしながら葉月の手がシャツの隙間から入ってきた。
迷うことなく赤い突起を撫でられ、全身がびくりと跳ねる。
輪郭を辿られるとむずむずしてしまう。
シャツをまくられるとふぅと息を吹きかけられた。
「なっ、なに?」
「ここ鳥肌たってる。可愛い」
「莫迦。あんまり見るなよ」
「ピンクで可愛いんだからじっくり堪能させて」
「やだ、んぅ……あっ、あぁ」
乳首を舌で含まれる。押しつぶされたり吸われたりと丹念に愛撫された。
ぴりぴりとした快楽が萎えたはずの性器にダイレクトに届く。再び顔をもたげさせ、蜜を溢れさせていた。
押さえきれない嬌声をあげると、葉月は表情を緩め楽しんでいるようだった。
我慢も限界だとばかりに乱暴な手つきでシャツを脱がされる。産まれたままの姿にされ、肌が震えた。
「俺ばっか嫌だ。葉月も」
「そうですね」
慌てて脱ぐ葉月に笑ってしまった。途中首が引っかかってしまい、モタモタしている。全然スマートじゃない。
でもそこがいい。それがいい。
「解すのこれでも大丈夫ですか?」
ベッドサイドの引き出しから出されたローションに驚いた。しかも封が開いてる。
「こんなの用意してたの」
「念には念を入れたんですよ。社長が昴さんを振付師にするって言ったときから」
「葉月の方がスケベ」
首に腕を回してキスをした。
蕾にローションを垂らされると冷たさに驚いたが、でもそれは一瞬だけで葉月の指で中を解されるとすぐに熱くなった。
中を押し広げるように挿入ってくる。久しぶりなのでキツイ。
短く呼吸を繰り返し、違和感を追いやってると身体は順応してくれた。
「かなりキツイですね」
「全然使ってないから」
「恋人は作らなかったんですか?」
「おまえ、寝取られ属性でもあんの?」
「まさか。相手を八つ裂きにしますよ」
笑顔で恐ろしい発言だ。
でもその独占欲が嬉しい。
指が増やされて奥まった部分を押されるとびりっとした快感が走った。
「ここ?」
「あっ、だめ……あっ、んぁ、あ!」
首を振って抵抗しても何度もしつこく押された。二度目の射精感が高まり、限界がすぐそこまで迫っている。
「っ……一緒にイきたい」
「いいですよ」
手早くゴムを装着させ、性器をあてがわれた。
「力抜いてね」
息を吐いたタイミングに合わせ、腰を進められる。中を押し広げるように挿れられ、圧迫感で苦しい。
「はっ、あ……はぁ」
「痛くないですか?」
「へーきだから……奥もっと、んあ!」
誘うように腰を揺らすと一気に奥を突かれた。がんと頭に響く快楽に一瞬意識が飛んだ。
腰を掴まれ弱い部分を攻められ、気持ちよさに声が上擦る。身体が熱くて仕方がない。
全身から汗が噴き出て、涙がぽたぽた垂れた。身体中が与えられる快楽に耐え切れず溢れ出ているようだ。
「すいません。あんまもたない」
「いい……から、あぁあっ、んっ」
「イく……っ」
奥を突かれると中がどくどくと震えた。後孔の力をいれて受け止める。
「やば、すぐイっちゃった」
「気持ちいい?」
「最高です。でも昴さんをイかせられてない」
「別にいいよ。そんなの」
自分の性器はぐんと天を仰いだまま蜜を溢れさせていた。でも早くイきたくて仕方がない。
腰を揺すると葉月は白い歯を覗かせた。
「俺、まだまだいけるんでいっぱいしましょ」
「……お手柔らかにお願いします」
「善処はしますけど約束はできませんね」
いたずらっ子のように笑ったら、すぐに律動が再開されて快楽に溺れた。
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