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第4話:気づいてしまったこと
あいつと並んで歩いていると、
ふと、他の人たちがみんなモノクロに見えることがある。
それくらい、あいつの存在が色濃く感じられた。
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いつものコンビニの前。
自販機の明かりに照らされて、缶コーヒーを片手に話す姿。
なんてことない会話なのに、僕はずっとその声を聞いていたくて、
口元が勝手にゆるんでしまう。
「……何わらってんだよ」
あいつにそう言われて、あわてて顔を背ける。
「なんでもない」
「ふーん?」
気のない返事。だけど、少しうれしそうだった。
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帰り道、信号待ちで並んだとき、
ふいに手が触れそうになって、あわてて引っ込めた。
でも、次の瞬間──
あいつの手が、僕の手の甲にふれた。
一瞬だけだった。
でもその一瞬が、体温ごと心に残ってしまった。
ふわっとあったかくて、
今もそこに、あいつのぬくもりが残ってる気がした。
鼓動が、どくどくとうるさくなる。
聞こえてしまいそうで、怖くて、でも──ちょっとだけ、うれしかった。
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部屋に戻ってからも、あいつの顔が頭から離れなかった。
あの手の感触。
あの目の奥にあった、やさしい光。
僕は──
この人のことを、“好き”になってるのかもしれない。
感謝とか、信頼とか、
そういうのとは、ちょっと違う気がした。
もっと近づきたい。
もっと知りたい。
もっと、あいつの隣にいたい。
それって、“好き”ってことなんじゃないのかな。
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スマホを握ったまま、何度もLINEの画面を開いて閉じた。
「今、何してる?」
そんな一言すら、送る勇気が出なかった。
打ちかけては消して、
ただ画面を見つめながら、心がぐらぐら揺れていた。
だけど、その夜。
ふいに、あいつからメッセージが届いた。
「明日も、来るだろ?」
その文字を見ただけで、
胸の奥がきゅっと熱くなった。
「うん、行く」
そう返した指先が、
すこしだけ震えていた。
あいつに会えるってだけで、
こんなにも自分が浮かれてるなんて、
ちょっと信じられなかったけど──
たぶん今の僕には、それだけが、救いだった。
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