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第3話:夕暮れの中で見つけたもの

日が沈む頃、またあいつと会った。 「今日も来たのかよ」 缶コーヒーをひと口すすりながら、笑うその顔は、いつもどおりだった。 でも僕の心は、昨日とちがっていた。 あのぬくもり。 あの言葉。 そのひとつひとつが、頭の中でずっと響いていて、 胸の奥が妙にざわついていた。 「なんか顔赤くね?」 突然言われて、びくっとする。 ごまかすように缶を口に運んだけど、中身はもう空だった。 「風邪か?」 「ちがうよ」 「……そっか」 それだけで会話は終わって、また沈黙が落ちる。 でも、その沈黙が前より怖くなかった。 不思議と落ち着く気がした。 あいつの横顔を見てるだけで、 胸のあたりがキュッとなって、目をそらしたくなるのに、 同時に、ずっと見ていたいとも思った。 「……ねえ」 自分でも何を言いたいのかわからないまま、口が動いた。 「俺さ、ちゃんと生きようと思ってる。今は、まだ、少しだけど」 あいつは何も言わなかった。 でも、ほんの一瞬だけ、こっちを見て──ふっと笑った気がした。 別れ際、「じゃな」と手をあげて歩き出す背中を、僕はずっと見てた。 もう少し、引き止めたかった。 でもその言葉が、どうしても出てこなかった。 代わりに、心の中で小さくつぶやいた。 「……また、会えるよね?」 風の音だけが返事をくれた。 家に帰る途中、ふと、今日の空がとても広く見えた。 何も変わっていないのに、 たった一人の人と話すだけで、 こんなにも世界は違って見えるんだって思った。 それが、恋なのかどうかは、まだわからない。 でも確かに、僕の中に、何かが生まれていた。

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