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第1話:眠れない夜に

布団の中で、目を閉じているのに、眠れなかった。 天井を見つめるでもなく、ただまぶたの裏で何かをぐるぐる考えていた。 昼間、教室で聞こえた笑い声。 誰かのヒソヒソ話。 隣の席の子の、わざとらしいため息。 全部が、僕を見下ろしてる気がして──息が詰まりそうだった。 家に帰っても、何もない。 誰も僕に「おかえり」なんて言わない。 母はテレビを見ながら、僕の顔も見ずにレトルトの夕飯を差し出してきた。 父はとっくにいない。 兄はどこかで遊んで帰ってこない。 「いただきます」って言っても、誰も返事しない。 あったかいご飯のはずなのに、口に入れると泣きたくなる。 味が、しなかった。 夜中、そっと起きて、窓辺に座った。 スマホの通知はゼロ。 SNSのアイコンはみんなキラキラしてて、僕のことなんて、誰も見てない。 投稿しようとしてやめた。 「つらい」とか「死にたい」とか、 そんな言葉すら、もう軽く見えて、僕には言う資格もない気がした。 ──僕より、もっとつらい人がいる。 ──こんなの、甘えだ。 何度もそうやって、自分を黙らせた。 気づいたら、涙が落ちていた。 誰にも気づかれたくなくて、声を殺して泣いた。 枕をぎゅっと抱えて、喉の奥を押さえて、 ただただ静かに、涙だけ流した。 「……ごめんなさい」 誰に? なんのために? わからないまま、口が勝手にそう言ってた。 でも、そう言うたびに、心が少しだけ軽くなった。 まるで、 「泣いてもいいよ」って、自分が自分に許してるみたいだった。 朝は、何もなかったような顔で学校に行く。 教室のドアの前で、一度深呼吸して、 笑えるように、顔をつくる。 それが、僕の“毎日”だった。 誰にも言えない痛みを抱えて、 それでも、誰かに気づいてほしくて。 そんな矛盾を、胸に詰め込んで、 僕はただ、 「誰かに見つけてほしい」って願いながら、 眠れない夜を過ごしていた。

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