4 / 4

第4話:その一歩の向こう側

スマホの通知が鳴ったとき、心臓が跳ねた。 「19時、〇〇駅の東口にいるね」 短いメッセージ。 でもそれだけで、胸がぎゅっとなった。 本当に、会うんだ──あの人に。 • ずっと望んでいた“誰か”の存在だったはずなのに、 いざ目の前に約束がくると、足がすくむ。 「やめた方がいいかも」って声が、 頭のどこかで何度もささやいた。 でも、 「誰かに会いたい」って思ったのも、 嘘じゃなかった。 • コンビニのトイレで、鏡を見た。 服はいつも通り、パーカーとジーンズ。 でも髪の毛だけ、少し整えてみた。 口元が震えていた。 緊張してる──そんな自分に気づいて、 ちょっとだけ、笑った。 「何やってんだろ……俺」 誰かに会うってだけで、 こんなにも不安で、 でもどこか、期待してる。 • 電車の中で、何度もスマホを見た。 改札を抜ける足が重い。 まるで、自分じゃない誰かが歩いてるみたいだった。 夜の駅前は人が多くて、 その中で自分だけが透明になった気がした。 街灯の下、誰かの笑い声。 タクシーのクラクション、におう夜の湿気。 その全部が、僕の存在をかき消していく。 ──本当に、大丈夫かな。 ──このまま、戻れなくなったら。 いろんな声が頭の中で渦を巻く。 でも、止まらなかった。 僕は、その人に会いたかったから。 • 駅の東口に立つと、メッセージがもうひとつ届いていた。 「青いシャツ着てるから、すぐわかると思うよ」 僕の手が、スマホをぎゅっと握りしめた。 胸の奥で、鼓動がどくどくと響いてる。 昔、誰にも会えなかった夜があった。 声をかける勇気もなくて、 ただひとりで歩いて、帰った夜。 今日は、違う。 「……行かなきゃ」 その一歩が、 この先の自分を変えるかもしれない── そんな予感がしていた。

ともだちにシェアしよう!