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第4話:その一歩の向こう側
スマホの通知が鳴ったとき、心臓が跳ねた。
「19時、〇〇駅の東口にいるね」
短いメッセージ。
でもそれだけで、胸がぎゅっとなった。
本当に、会うんだ──あの人に。
•
ずっと望んでいた“誰か”の存在だったはずなのに、
いざ目の前に約束がくると、足がすくむ。
「やめた方がいいかも」って声が、
頭のどこかで何度もささやいた。
でも、
「誰かに会いたい」って思ったのも、
嘘じゃなかった。
•
コンビニのトイレで、鏡を見た。
服はいつも通り、パーカーとジーンズ。
でも髪の毛だけ、少し整えてみた。
口元が震えていた。
緊張してる──そんな自分に気づいて、
ちょっとだけ、笑った。
「何やってんだろ……俺」
誰かに会うってだけで、
こんなにも不安で、
でもどこか、期待してる。
•
電車の中で、何度もスマホを見た。
改札を抜ける足が重い。
まるで、自分じゃない誰かが歩いてるみたいだった。
夜の駅前は人が多くて、
その中で自分だけが透明になった気がした。
街灯の下、誰かの笑い声。
タクシーのクラクション、におう夜の湿気。
その全部が、僕の存在をかき消していく。
──本当に、大丈夫かな。
──このまま、戻れなくなったら。
いろんな声が頭の中で渦を巻く。
でも、止まらなかった。
僕は、その人に会いたかったから。
•
駅の東口に立つと、メッセージがもうひとつ届いていた。
「青いシャツ着てるから、すぐわかると思うよ」
僕の手が、スマホをぎゅっと握りしめた。
胸の奥で、鼓動がどくどくと響いてる。
昔、誰にも会えなかった夜があった。
声をかける勇気もなくて、
ただひとりで歩いて、帰った夜。
今日は、違う。
「……行かなきゃ」
その一歩が、
この先の自分を変えるかもしれない──
そんな予感がしていた。
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