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聖くんは皐月さんの処女がほしい・1

※美人攻め、イケメン受け ※リバなし(ただし、玩具は使います)  人生は冒険だとか宣ったどこかの人間。その文言に一切の文句を差し込む余地もなく恨みもなく、俺が今からするであろう体験はまさしく冒険と言うにふさわしい。  端整な顔立ちの銀髪が印象的な俺の恋人はウキウキで何やら様々な器具の用意をしている。それらの器具が何に用いられるものなのか想像できるだけにゾッとするような、しかし俺の愛する人が楽しそうならそれで良いかと諦めにも似た献身の心が自分の中に芽生えているのも自覚しているため、黙ってその様子を眺めていた。ただ眺めているだけでは手持ち無沙汰で、一連の行為の際に邪魔になるだろうと想定される右目に装着していた眼帯を外し、ベッド傍の小さなテーブルにそれを置いた。  恋人・及川聖(おいかわ・ひじり)のある発言がことの始まりとなった。「皐月(さつき)さんの処女が欲しい」らしい。今日日、女性相手にも言うことはないだろうそんな言葉を浴びせかけられ、俺は一瞬、目の前の男が宇宙人か何かに思えた。そもそも男である俺の処女とは、という疑問があったし、しかし目の前の男は俺のすべてに執着する人間だったので、俺に処女というものが存在するならそれを欲しがるというのも納得するところではあった。否、ここで納得してしまったのだから、俺は相当この男に毒されているのだろう。それもこれも大学時代からの長い付き合いのせいだ。  及川聖の異様な執着心には慣れたものだが、まさか今更になって処女性を差し出す羽目になるとは思わなかった。傍目から見ても色狂いと捉えることができる聖の性衝動は、俺が気絶するほどまで夜の相手することによって抑えつけてきた部分があり、求められるまま男役として性交渉を重ねてきた。そう、気絶するほど相手にしてきたのに、それ以上を求められるとは思っていなかった。  だが、聖はそういう男だ。どこまでいっても満足しない男だ。俺はそれを知っていたはずだ。そして知っているからこそ俺は納得したし、諦めていた。  だから俺が処女性を差し出すということ自体に異論はあまりないのだが、様々な大人の玩具を入念に手入れしている聖に疑問はあった。  俺のケツに突っ込むイチモツならてめえも持ってんだろ、という話だ。 「聖……百歩譲って縄やら何やらは目を瞑るが、なんでディルドまで用意してんだよ」  小ぶりではあるが確実に男性器を模した玩具を消毒する恋人の姿をここまでまじまじと見ることになるなんて、誰が想像するだろう。俺はどことなく気まずい思いで、左目にかかる茶髪をかきあげながら聖に声をかけた。  俺の質問に似た批難の言葉に一点のやましさもない清々しい笑顔でこちらを振り返る。 「なんでって、皐月さんだっていきなり俺のヤツ突っ込まれると裂けるでしょ。だからとりあえず俺より小さめのディルドの方が良いかなって」  俺と出会うまでは(否、出会ってからも)何人もの女の子を泣かせてきた自慢のイチモツは俺のケツに納めるにはデカすぎる――ということらしい。聖なりの気遣いというか譲歩というか、なんというか、俺の処女が欲しいというのを理由にして玩具を使いたいだけなのではという気がしてきた。  しかし一方で、聖の言っていることに一定の説得力はあった。確かにデカい。一八〇センチの図体に見合う程度にはデカい。  騎乗位で俺の上に跨っている聖の姿を思い出す。俺のペニスをアナルに咥え込みながら腰を揺らす体のそのど真ん中で濡れて揺れ動く真っ赤でデカい聖のイチモツ。その光景は控えめに言わずともめちゃくちゃエロいのだが、同時に確かにアレを俺のケツにいきなり入れることができるかと言われると難しいだろうと思った。  聖の清々しい笑顔に丸め込まれるのはいつものことだ。俺の心の隅に残っていたささやかな抵抗ですら黙殺された。 「本当に縛るのか?」 「縛るよ」 「どうして……」 「雰囲気出るでしょ」 「雰囲気、ねえ……」  全裸にひん剥かれた俺はベッドの縁に座った状態で両手首を聖に向かって差し出していた。身長一八五センチもある大男が身を縮めて大人しく両手を差し出している様子はなんとも情けないだろうと思った。聖は何やらスマートフォンで手順を確認しながら俺の手首に縄を括りつけていた。 「……適当に縛ればどうにかなるんじゃないか」 「ダメに決まってんだろ。こういうのはちゃんとしないと怪我に繋がるんだから」  この情けない状態を一刻も早く脱却したいという気持ちから出た言葉だったが、思いの外反発を喰らってしまい、黙らされてしまった。聖の言うことはもっともだ。だが、俺の気持ちも考えてくれ。そもそも処女が欲しいだけなら緊縛する必要もないはずだ。 「うーん、この結び目が目印で……なるほど、ここから通すのか……」  何度も思うことだが、緊縛する必要はないのだ。だが、真剣そのものといった表情の聖に文句を挟む隙もなく、ただ黙って手首を縛られている。  ――まあ、別に拒否するほど嫌ってわけでもないんだよなあ……。  どうにでもなれというか、なるようになるというか、聖曰く「なんでも受け入れすぎ」という俺の気質がここでも発揮されてしまっているのだ。 「……よし。じゃ、皐月さん。ベッドの上に横になって?」  一見無邪気な笑顔は淫靡な色に塗れた表情で、小首を傾げて俺を見つめてくる。首を傾げたまま近づいてくる端整な男の顔。鼻先が触れ合った次の瞬間、柔らかな肉の感触を自身の唇に感じた。  何度も唇を啄みながらゆっくり気遣わしげに、しかし聖はしっかりと俺の肩を押してベッドの上へ押し倒してきた。唇や控えめに吐き出される息、肩に触れた手から伝わるじっとりとした熱に俺はいつまでも――それこそ大学時代からずっと――浮かされたままなのだと、聖への惚れ込み具合につくづく呆れそうになるのだが、愛おしい気持ちや好きだと思う気持ちは制御できないものだということも知っていた。  手を縛られていたときよりも随分心臓の音が喧しく思えた。それほどに俺はこれから繰り広げられる行為に興奮を隠せずにいた。

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