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背中にマットレスが触れたのを感じると縛られた両手首をそのまま頭上へ押し上げられ、ヘッドボードから伸びるベッドの足へ通した縄に結び目が繋がれる。ヘッドボードにはちょうどよく繫ぎ留めることのできるようなポールが存在しなかったため、聖の苦肉の策だったのだろう。足からマットレスまで縄が伸びているため緊縛というには余裕があるような状態だが縛られていることには変わりなく、多少動くことはできても腕を胸元に下ろすことなどは叶わなかった。
その間にも何度も口づけられ、聖の唇が俺の顎や首をなぞり、時にちゅっと音を立てながら吸い上げられたり、その度に俺は自身の呼吸が荒くなっていくのがわかった。柔らかな唇の感触が胸まで下りてくる。俺の鼓動が伝わるかもしれない――そう思うと恥やら興奮やらで余計に心臓が高鳴るのだ。そして同時に閉じた右目の奥で蠢くむず痒い感覚。
――早すぎる……。
右目の奥から物体が蠢き生まれ、瞼を内側から押し開けようとする感覚。両目を瞑ることでその動きを押し留めようとするが、唯一見えていた左目も閉じてしまったことで聖の唇の感覚がより生々しく感じられて、右目の奥がさらに蠢き、そしてとうとうその物体が右目から溢れ出してしまった。感情が昂ると俺の呪われた右目は気持ちに合わせた色の薔薇を量産しだす。こうなってはもう止めることもできず、白や赤の花弁が次々と右目から零れ落ちていくのをぼんやりと開いた左目が捉えた。そしてその視界の中には当然聖の顔もあり、その表情は嬉しそう以外に形容ができないほど清々しい笑顔だ。そして明るい色の瞳の奥に渦巻くとろりとした熱で俺を捕らえてくる。
「はは……皐月さん、もう興奮してんだ」
「……うるせえな。いつもと違うんだから、仕方ねえだろ……」
聖はとろりと溶け出す熱視線で俺の目を見つめたまま唇を胸の上へ滑らせていき、高まった体温でぷくりと腫れ上がった乳首にそっと触れる。
「ンッ……」
柔らかい唇で優しく刺激されているだけなのに、下半身に熱が集まるのがわかった。そもそも全裸で両腕を縛られている状態の俺と、衣服をすべてしっかり着込んだままの聖という対比が俺の恥じらいと呼べる感情にさらに拍車をかけている。俺だけが辱めを受けているのだ。そうなれば刺激がいくら微弱なものであれ反応してしまうのも当然とも思える。
聖は俺の左胸を何度か優しく唇で喰み、やがて濡れた舌先を突き出してきた。
「ん、んっ……」
反射的に腕を下げようとしてしまうが縄に阻まれてそれは叶わず、聖の思うがままに胸を刺激され続ける。聖が乳首を啄むたびに唾液で濡れてつやつやとしていき、さらに赤く腫れ上がる。まるで食べてくれと言わんばかりに主張を激しくする自身の体の一部分。そう考えると自分で自分の恥を煽る形となり、ますます薔薇の花弁が量産されていくのだ。
舌先で輪郭を舐めまわされたかと思うと乳首の皺に割り込むように上から強く押しつぶされ、その刺激の強さにびくりと体を跳ね上げてしまった。勿論手首は縛られた状態であるため、縄に引っ張られたベッドが軋みながら、体は仰け反る形になってしまう。
「はあっ……!」
「ふふ、皐月さん、可愛い」
なんでもない笑い声ですら、その吐息で胸が刺激されてじんじんと快楽が全身に回っていく。
確実にいやらしい顔つきであるのに、清々しさや無邪気さの抜けきらない聖の表情と、一方で辱められる俺。
「……ずるいだろ……」
「ん? 何が?」
わかっているくせに、聖は俺の文句を意にも介さず執拗に左胸に口づけを繰り返す。びくりびくりと体が震えるたび、白や赤の花弁が己の胸やマットレスへ落ちていく。
「あっ、あ……ずる、い……聖っ……やっ……」
「皐月さん、可愛く啼きすぎ。もっと意地悪したくなるからダメでしょ」
どうして俺が説教されているのかまったくもって理解はできない――できるが、理解したくないが正しい――のだが、聖自身も説教というよりも至極楽しそうで、「可愛い」という感想が心の底から出てきているものだということは伝わってくる。
「お前ばっか……ヒッ、ん……ずるい……!」
「だから、何が?」
「お前だけ、服着てんの……フェアじゃな、アッ!」
「でも興奮してんじゃん、皐月さん。こういうシチュエーション、結構好きなんじゃないの?」
熱を持った聖の手が急に俺のペニスを握り込んできて、言葉を最後まで発することができなかった。それまで触れられずにいたそれは、既に先走りで十分すぎるほど濡れそぼっており、聖の手を一気に体液に塗れさせてしまったことがわかった。
優しく握られているだけでまだしごかれてもないのに、己の呼吸が浅く速くなる。ともかく恥ずかしさと興奮だ。それらが脳を支配する。そしてその羞恥と興奮が愛する人に御されているという事実がまた俺の背徳じみた欲望を刺激するのだ。
「ハァッ、ハッ……くそったれ……!」
「そんな言葉遣いしちゃダメだよ、皐月さん。気持ち良くしてあげるから、お行儀良く――ね?」
色っぽく低く囁かれた次の瞬間に、ぐちゃりという水音と同時に今までとは比べ物にならないくらいの快感が俺の神経を襲う。耳はぐちゃぐちゃと淫らな音に犯され、ペニスは温かく濡れた大きな手に無慈悲に擦り上げられる。腰が跳ね上がりそうになるのを押さえ込まれながら、ただただ快楽を与えられ続ける。自身のペニスがどんどんと膨張していくのを感じ、さらに呼吸が浅く、そして途切れ途切れになる。興奮で上手く酸素が回らない。
「あ、アッ、やぁ……うっ……は、はあっ!」
「ねえ、皐月さん、気持ち良い?」
一切着衣の乱れもなく、しかし頬を上気させた赤ら顔で興奮気味に問いかけてくる年下の恋人。
――この男はいつもそうだ。嬉しそうに、でもいつもどこか満たされずに不安で、問いかける必要もないことを聞いてくる。
「く、そっ……んなこと、聞くな……あ、あっ……」
「ねえ、きもちい?」
「バ、カ……っはあっ……良くなかったら、こんな風に……なってない……!」
「――よかった」
興奮の中に少しだけ混じっていた不安が抜け落ちて、また無邪気な微笑みを浮かべている。
こんな表情をされて、求められて――尽くされて。愛おしく感じないわけもないのだ。
「皐月さんの声聞いてたら俺も勃っちゃった」
男はそう言うとようやく身に着けていた衣服に手をかけ、筋肉質な肉体をこちらへ見せつけるようにゆっくり脱衣を始めた。まだ手のつけられていないスラックス。その布の上からでもわかるほど、聖のペニスが大きくいきり勃っているのがわかった。
――確かに、これは『処女』にはキツイだろう。
「……そんなこといちいち言うなよ……」
文句が口をついて出るが、それでも聖も俺と同じように性的興奮を覚えていることがわかって、俺もおそらく、聖と同じような安堵を感じていた。
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