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一糸纏わぬ姿となった聖は勃起したそれを俺のものに押し当てるように体を重ね合わせる。その間も口腔を聖の舌に犯され、口の端から零れ落ちる唾液と右目から散る花弁とほんの少し滲んだ汗で互いの体がゆっくり着実に汚れていく。普段であれば自由な両腕で聖の体を掻き抱くことができるのに、今はそれが叶わない。これがどんなにもどかしいことか、むしろ普段の自由を理解させられた。
俺たちはもしかしたら交わることのなかった人間同士だったかもしれないのに、普段は思うがままに互いを抱きしめている。それができることの尊さをこんな風に実感することになるとは思わなかった。
聖の赤黒く膨張したペニスと擦れ合うたびに、くちゃくちゃ、と控えめで粘着質な水音が部屋に響く。互いに口内を貪る呼吸音や絡まる舌の音で聞こえないかと思っていたのに、何もかもが淫らだ。聖はその大きな手でふたり分のイチモツをまとめて覆い、より大きな快感を得られるように同時に擦り上げる。絶え間なく与えられる強烈な悦楽に、ただひとつ残された左目の視界がチカチカと揺れ動く。叫び声とも言うべき嬌声は聖の唇でくぐもって閉じ込められてしまう。
――きもちいい、いきたい、いきたい。
素人がフルマラソンを走らされているかの如く、俺の心臓は限界まで拍動している。
同性同士の性交渉にそこまで詳しくない俺でもわかる。聖は相手の快感のスイッチを探るのが上手い。竿全体を擦り上げられながらも、とめどなく体液の溢れ出す鈴口を濡れた指先で優しくクリクリと刺激される。否、同性同士だからこそわかるのかもしれない。そして文字通り聖の手のひらで俺の悦楽は転がされ、今にも至りそうと思ったときだ。
「……皐月さん、いい?」
すべての動きを止め、聖が静かに強欲の炎を目の中に宿しながら俺の左目を射抜く。
本当はすぐにでも「いきたい」のだ。だが、今日の目的はそこではない。
聖は俺のすべてを欲している。そして俺も、それが聖の望みなら止めることはない。
無様にも右目から白い花弁が零れ落ちるのを止めることもできず、聖の目を見てただ頷くことしかできなかった。
聖は上半身を起こすと、流れるように俺の両足を抱えて開脚させる。腕は頭上に縛られ、股を開かされている自分の姿を考えると、右目からさらに花弁が溢れていく。
「そんなにいっぱい出したらもったいないよ、皐月さん」
口づけられるかと思いきや、聖の唇は俺の右目に寄せられて、花弁を食す音が右耳に響く。
聖の悪癖だ。確かに薔薇は可食性のある植物だが、聖は俺のすべてを欲する故に呪われた薔薇の花弁でさえ自分の中へ取り込もうとする。
「……キスしてほしかった?」
完全に死角の右耳から囁かれ、自分の体温が一層上昇するのがわかる。そんな表情をしていたのだろうか、いや、俺はそんなつもりはまったくなかったのに。聖には俺の表情がわかるのに、俺からは聖の表情がわからないのが悔しかった。
「そんなんじゃねえよ……」
「あとでいっぱいちゅーしよう。ね、皐月さん」
子どもを宥めすかすような物言いは気に食わないが、心底嫌というわけではなかった。再度上半身を起こした聖の表情はうっとりとした恍惚に浸ったもので、口の端にひっついてきていた花弁の一枚を満足げに舌で口腔へ引き入れていた。
その真っ赤な舌が欲しいのに、今はまだくれないらしい。
「先にこっち、気持ち良くしてあげるから。もう少し我慢ね」
その真っ赤な舌は、俺の股の間で膨れ上がり勃起したペニスに寄せられる。そして濡れた舌が既に粘液に塗れた竿をゆっくり舐めあげる。
「あっ……ん……」
「ネトネトしてる。皐月さん、ほんとはすぐにでもイきたかった?」
「いや、あ、そんな……アッ……」
もう一度ペロリと竿を舐めあげる聖の瞳の淫靡な様は、誰にも見せたくないものだった。
「恥ずかしい? でも恥ずかしいことしてんだよ、俺たち」
「……余計なことばっかり……」
「ごめんごめん。皐月さんが可愛くて」
「お前、可愛いと言えば良いと思って調子に乗るな、あ、ひ、んんっ!」
俺の反論に反撃を被せてくるように、俺のペニスが聖の口内へ一気に含まれた。吸い上げられる感覚と、鈴口を舌でぐりぐりと押し広げられる感覚。全身がびりびりっと快感に震え、唾液と先走りが混ざり合った熱い液体が竿を伝って尻の方へ流れるのを感じた。身を縮めたいのに両腕が拘束され、膝の間には聖の体が割り込んでいて何もできない。
ずぽっ、ぐぽっ。
生々しい粘着質な音と共に聖の口腔と唇にペニスがしごき上げられ、俺もまた揺れる腰を抑えることができず、聖の喉元へ向かってできる限り腰を突き出してしまう。
聖自身は強欲で「足るを知らない」人間だという自覚があるが、俺はどうだろうか。俺の欲深さも聖と大した差はないのではないか――特に体を交えているときにはそう感じてしまうこともある。
もっと欲しい、もっと気持ち良くなりたい。
お前が欲しい、お前に求められたい。
この感覚は聖の欲深さと同じものなのではないか。そう思う。
快楽を追い求めている内にいつの間にか腹に唾液でも精液でもない別の粘性の液体が垂れ流されるのを感じた。少々の違和感に少しだけ理性を取り戻して仰け反っていた首を元に戻し、聖を見る。
常々、俺の恋人は器用な人間だと思ってはいたが、聖は自身の口で適度にフェラチオをしながら一方で手に出したローションを温めて俺の腹へ垂れ流していた。
視線がバチッと交わると聖はにやりと笑みを深めて、口ではペニスを咥えたまま俺の下腹部をマッサージするようにローションを塗り広げていく。粘性はあるが粘度の強すぎないそれは陰毛の合間や足の付け根やらをするすると滑り落ちていき、俺の臀部を瞬く間に濡らしていく。下腹部をさすっていた聖の右手はそのローションの行方を追うように俺の足の付け根をなぞり、そして今や丸見えになっている窄まったアナルにそっと指を添えた。ローションやら体液に塗れた指先がヌルヌルとアナルの輪郭を揉みほぐすように蠢いている。
「あ、あ……」
「……皐月さん、ほんとに、良い?」
如何ともしがたい違和感を肛門に覚えながら陰茎にはずっと快感を与え続けられて、ひたすら言葉にならない声を漏らすしかできない俺。そんな俺に向かってまたも不安そうな色でお伺いを立ててくる聖の幼気な表情が愛おしくて、それでありながらいつまで生殺しにされるのかわからず、俺は。
「良いから……! お前が欲しいんだって何度言わせるんだ、聖!」
「……そんなこと、今日は言われてないのに……」
珍しく困ったような表情で聖にそう言われてしまってから、俺は顔を覆い隠したくて仕方なかったが、両腕を縛られた状態で勿論そんなことをできるわけもなかった。
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