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「皐月さん、萎えてないのえらいね。まだ後ろは慣れないだろうけど、こんだけ元気なの、良い子だね」
どれくらいの時間が経ったのかわからないが、時折ローションを注ぎ足しながら俺のアナルはずっと弄られ続けていた。俺が勃起状態を維持できているのはひとえに聖の献身的な奉仕のおかげであり、俺がえらいとかえらくないとかそういう問題ではない。だが、子どもをあやすような優しい口調で語りかけてくる聖の恍惚とした表情。それを見るだけで俺の性的興奮が煽られる。
「皐月さん、好きだよ――可愛い、愛してる」
絶え間なく恋人の陰茎をしごきながら、愛を囁く銀髪の男の、いじらしさ。その光景の眩しさに俺の視点はまたもくらくらと揺れだす。ずっと体内で蠢いているものが聖の指だと思うと、さらに脳までもくらくらと朦朧とし始めた。男らしくごつごつとした指が――もう何本入っているかわかりもしない――俺の中にずっといる。気持ち良いとか良くないとかそういうことじゃない。その事実が俺にとって大切な事象だった。それを認識してしまうと、喘ぎすぎて既に緩くなっていた口がさらに止まらなくなってしまった。
「あ、あ、あ……ひ、聖……」
「ん、どうしたの?」
「なん、か……アッ……あ……な、んか、へんっ……」
「イイの?」
今回の問いかけは「お伺い」などではない。快楽を感じ取っているのか、という確認だ。
恍惚をさらに超えていきそうな聖の期待に満ちた視線が容赦なく俺に浴びせかけられる。その視線がさらに俺を煽るのだ。
「わかんね、え……はっ、ああ……でも、でもっ」
「皐月さん、その顔やばいって……エロすぎる」
お前の方がよっぽどエロい。そんなことを言っても水掛け論になるのはわかっているためそれを言葉にすることはなかったが、それでも口から自然に声が漏れ出てしまう。
「へん、ひじり……! や、アッ……聖ぃ……!」
「あー……やば……皐月さん、あんまり煽らないで。頼むから」
「でも、聖っ……へんっ、なんか、アアッ、へん、ンン……!」
「お願いだから、ねえ、皐月さん……静かにできる?」
「やっ、むり……声、でるっ、あ、あっ」
「くそ……あー、ぶち込みてえな……」
心の声が漏れ出ている。素直すぎるのも考えものだと思うが、この男がここまで素を出すのも俺の前だけだ。そしてこんなくだらない優越感を抱くほど、この男に肩入れすることになるとは出会った当初は思いもよらなかった。
聖は俺のペニスをしごく手は止めずに、しかし何やら考えごとをしている様子だった。その間も俺は俺の声とは思えない喘ぎが自分の口から漏れるのを止めることはできなかった。
「は、んっ、あ、あ、聖、おれ、俺っ……!」
「んん……わかったから、そんなに煽らないで、お願い」
「あおってなんか、アッ、うう……ないっ……でも、中が、なか、へん……あああっ!」
ずるりと勢いよく体内から聖の指が引き抜かれる。はずみで一際大きな声を上げてしまったが、そんなことに構ってられない心配があった。
排泄をしたときと同じような感覚に肝が冷えたのだ。散々痴態を晒しているのにこれ以上醜態を積み上げるわけにはいかないと思った。だが、同時にその心地よさが脳天をじんわりと刺激したのも事実だった。
「えっ、アッ、出てないよな?」
血の気が引くとはこのことだと思ったが、聖の方を見ると特に何も気にしていない様子で、行為が始まる前に手入れしていたディルドを手にこちらを見ていた。
「えっ……出てないよ? ってかヤる前にちゃんと準備したから大丈夫だって」
「でも……」
「汚れてないよ、大丈夫――それより、皐月さん。今からこれ、入れるから」
どうやら聖自身の問題は解決したらしい。聖に一瞬発生していたらしい「ぶち込みたい」という欲望は一旦引っ込みがついたらしく、予定通り俺のアナルには小ぶりのディルドを入れることに決めたようだった。
「結構簡単に入ると思うよ」
「……どういう?」
「だって皐月さん、俺の指めっちゃ咥え込んでたもん――これくらいの大きさならちょっときついくらいだと思う」
聖は慣れた手つきでディルドにコンドームを被せ、その上からローションを垂らす。コンドームで光沢の消えたディルドは一瞬にしてその黒い輝きを取り戻す。あの赤い舌が再び現れたかと思うと、聖はもう一度俺のペニスを温かい口内へ招き入れた。
「あ、あっ」
ぬめぬめとして柔らかく、ちょうどよく口蓋が先端に当たり、すべてが快楽に繋がってはち切れんばかりにペニスが充血する。先端から溢れ出す体液は吸い込まれ、ときに唾液とともに竿を伝い落ちていく。
それと同時に多少解されたアナルに、聖の指と比べると随分冷たい物体が押し当てられ、そして半ば無理矢理と言っても良いくらいの力加減でディルドの亀頭部分が押し込まれた。指とは明らかに違う圧力に「はっ、はっ」と犬のように息を漏らすことしかできず、しかし陰茎に与えられる刺激で嬌声も迫り上がってきて、俺の声帯は混乱していた。これ以上の圧がかかるのかと不安がよぎったが、亀頭部分が一番太さのある部分だったらしく、そこからは徐々に腸壁を押し開きながらディルドが侵入してくるのがわかった。
「ん……皐月さん、すごいよ。萎えてないし……それどころかめっちゃ勃起してんじゃん」
冷静に語る聖に目を向けるが視界が少しだけ霞んでいる。涙が滲んでいるのだ。
「くそがァ、聖の、バカッ……」
「ごめんごめん。最初が一番きつかったでしょ? 今はほら……」
すると聖はディルドの端を掴んで抜き挿しし始めた。排泄の感覚と押し入られる感覚が短スパンで繰り返され、滲んでいた涙が今度こそ零れ、右目からはそれまで以上の花弁が溢れ始めた。
「アッ、アッ、あ! や、それっ、んああっ」
「ちょっとしか動かしてないって、大袈裟だなあ……可愛い」
「へん、あ、あっ、や、だっ……」
「皐月さんもだいぶ気持ち良い思いしたから……」
聖は抜き挿ししていた手を止めて、ディルドを入れられるところまで入れると、俺の腹の上へ跨る。
「次は俺の番ね」
舌なめずりは一般的に行儀の悪い行動とされているが、この場面においてはそれが正式なマナーと思えるほど、聖の恍惚の表情は堂に入ったものだった。
聖の体の中央には赤黒く勃起した陰茎が立派な様で存在していた。
本当に思い直してくれてよかった。俺は心の中で呟く。
聖にしてはだいぶ理性を働かせてくれたと思う。いや、この男は欲望に忠実ではあるが、なんだかんだ結果的に俺を優先する節があるため、今回の流れも予定調和ではあったのだろう。
俺の胸に手をつきながら、聖は自身のアナルを俺のペニスの先端にあてがう。いつものあの感覚だ。たっぷり濡れたペニスがそっと聖の中へ飲み込まれていく。肛門部分が一番圧迫感を覚える部分で、あとはふわふわとした肉に引き込まれ、包み込まれる。アナルに搾り上げられ、柔らかな肉に己の欲を穿つ悦楽は俺たちの間に存在する確かなコミュニケーションだ。だがいつもと違うのは俺のケツにも玩具が押し込まれているという点だ。
いつもと同じように体重をかけられても、感じ方がまったく違うことにようやく気づいた。
「あ、んあっ……でっかぁ……ハハッ……皐月さん、興奮しすぎじゃない……?」
先程までは優位を取っていた余裕もなくなり少し呼吸を乱しながら、しかし嬉しそうな笑顔でこちらを見下ろしてくる銀髪の男。相変わらずこちらには余裕なんてものはない。文句のひとつでも言ってやりたかったが、それどころじゃない。
「うっ、あ、あっ……ひ、聖っ……!」
「痛い?」
聖は俺のペニスを根本まで咥え込むと小首を傾げる。嬉しそうな笑顔は変わらない。
痛いとかそういうことじゃない。これはわかっている顔だ。俺が訴えかけたいことがわかっているのに、わざとはぐらかしている。
だがここで痛いと言えばおそらく、聖はすぐにでもこの行動をやめる。だから俺が取れる選択肢はひとつしかなかった。
ふるふると首を小さく振る。それを見た聖は最上の笑みを浮かべて俺の胸にしなだれかかってきた。
「可愛い、皐月さん。頑張ったご褒美にキスしてあげる」
だらしなく開いたままだった口内へ、熱すぎる舌が挿し込まれる。先走りの苦い味の混じったムッとした香りの接吻だが、それが興奮すると言ってしまえば俺は変態扱いされるのだろうか。否、そんなことはどうでもいい。今こうしてようやく舌を絡ませ合うことができたことが俺は幸せなのだ。そしてこの男の体内に俺の欲望をぶつけたくてしようがなかった。自然と腰が聖の臀部へ向かって浮いてしまう。
「アッ……」
聖がキスの合間に声を漏らす。俺の声なんかよりずっとずっとエロい。その自覚があるのかないのか。そこまでは俺にはわからなかったが、その声を聞きたくて、また腰が浮く。俺の腰が聖の臀部を叩きつけると聖の声が自ずと漏れる。
「あ、ん……皐月、さんっ、あ、あっ……だめ、我慢してっ、ンンッ」
「むり、もう……は、あ……!」
「だめ、だめ……『動かす』から、ね? ちょっとだけ待って」
聖がベッド傍のテーブルから何やら手のひらサイズのものを引き寄せる。何かと思ったが左目を凝らす必要もなく、聖はこれ見よがしに手の中のものを俺の目の前まで持ってきて、そしてスライド式のスイッチを入れた。
その瞬間、体内に埋め込まれていた異物がゆるくぐねぐねと蠢き出す。
「あああっ……!」
聖が俺の中に仕込んだディルドはただの物体ではなく、リモコン操作が可能なタイプの玩具だったのだ。ゆったりとした動きではあるものの腸をかき混ぜられるような感覚に驚き、声が止まらなくなった。
「あ、あ、やだ、アッ、ああ」
「気持ちよくない? だめだったら、止めるから、言ってよ――あ、アッ――でも嬉しそう。腰が、んん、揺れてる……」
「く、そ、んんっ、あ、あ、あ……!」
こんなにこの男を無茶苦茶にしてやりたいと思ったのは久しぶりの感覚だった。
俺の右目から零れ落ちる花弁が限りなく黒に近い赤や深紅へ変化する。
両腕を縛られ、ケツに玩具を突っ込まれ、馬乗りになられて、俺のこの気持ちはままならないまま、ただただ、この男を壊れるほどに犯してやりたいという気持ちとそれでも愛しているという気持ちがないまぜになり、左目から零れる涙も止まらなくなった。
「聖っ、やだ、腕だけで良いから……!」
「なんで?」
俺の上で嬉しそうに腰を振る男は極上の笑みで「なんで」と問う。
こんな状態でなぜ「腕だけ」解放してくれれば良いと思ったのか。
――答えは実にシンプルなのに、それを答えさせようとするコイツは本当に性格が悪い。
俺は泣きながら懇願するしかなかった。
「抱きしめたい、聖、抱きしめさせてくれ……!」
そこから先の記憶はあまりないが、正直に言えばわりといつものことなのだ。
俺が気絶するまでセックスが続く。それだけの話だ。
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