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「皐月さあん……ねえ、皐月さんってば」  気づいたときには、肛門から玩具は引き抜かれ、ある程度の汚れが拭われてベッドの上に裸で横たわっていた。  今回ばかりはしばらくの間、聖と言葉を交わしたくなかった。という思いもあるが単純に喉が痛くて言葉を発するのも辛い状態だった。俺は聖に背を向けて黙って壁を見つめていた。本当に、少々、否、だいぶ疲れていた。 「……ごめんなさい」  先程確認したとき、聖は下着のボクサーパンツを穿いているだけの状態だった。俺に無茶をさせたという認識はあったようで、いつもならさっさとシャワーを済ませているところをそんな様子もなかった。俺が目覚めるまで待っていたのだろう。  背中から聞こえてきた謝罪の言葉は、本当に反省しているという感じで、だが、ここで許してしまって良いのかいまいち判断がつかず、黙っていた。 「皐月さん……ごめんなさい」  二度目の謝罪の言葉は日頃豪胆である男から発せられているものとは思えないほどか細く、語尾は消え入りそうだった。  ギャップというやつだ。  俺は、この男のそういった二面性にとことん弱い。甘いとも言えるだろう。  ごろりと寝返りを打ち、聖の声がした方向を振り返る。そこにはボクサーパンツ一丁の状態でフローリングの床の上に正座をしている銀髪の大男の姿があった。端整な顔立ちのしょぼくれた様の、なんと情けないことか。 「……ぶっ……ふふっ……」  本人は真面目なのだ。なのにどうしてもシュールに見えてしまって、俺は慌てて再び壁の方向へ寝返りを打つ。 「え、ちょっと待って……皐月さん、今、笑った……?」 「…………」  笑ったとも笑っていないとも言えず、俺はまた壁を見つめるしかできない。 「ちょっと、ねえ、笑ったでしょ、ねえ! 流石に酷くない、皐月さん?」  それは逆ギレというものだろうと言いたかったが、パンツ一丁の男が逆ギレしているのかと思うとそれすらもおかしくて、俺はとうとう笑いを堪えることができず、腹を抱えて大声で笑ってしまった。  喉は痛いまま、なんならケツも痛いまま。そしてなぜか逆ギレをされている。  だが、俺はもう、及川聖のこういった部分も含めて一緒に生きていこうと思ってしまったのだろう。そう再認識することとなった。 <終>

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