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第73話

 口元から血を噴き出すぼくをあなたはどんな顔で見つめているんだろう。逆光でよくは見えない。ぼくは力を振り絞ってぼくを見下ろす影に手を伸ばそうとした。 「にい、さ、ま」  ご無事でなによりです。ぼくはきちんとあなたの盾になれました。ぼくの夢が叶ったんです。どうか最後だけ、ぼくを褒めてください。そうしてもらえれば安らかに眠れます。 「オズ!」  遠くでレフさんの悲痛な叫びが聞こえる。ぼくは自分の胸から流れる止まらない血を見て、覚悟を決めた。  叶うなら、もう1度にいさまと額をつけて他愛もない話をしたかった。  涙がつう、と瞳から溢れていく。悲しいのではない。嬉しいのだ。命をとしてにいさまを守れたことが誇らしいのだ。  ぼくは笑おうと思った。にいさまに見せる最後のぼくの顔は笑顔が1番似合うと思ったから。力の入らない頬を無理やり持ち上げ口角を上げる。 「オズ! 早く止血を。もうこんなに血が流れてしまっている。医療班を呼べ。早く!」  いつのまにか傍に膝をついたレフさんが騒然とした会場で叫ぶ。応急処置をしてくれているらしい。レフさんは自らの腰巻きの裾を裂いてぼくに巻きつける。噴き出していた血は少し止まり、ぼくは貧血のせいか視界が眩んだ。

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