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第79話 sideハイリ
ハイリは目の前で傷だらけの包帯姿のオズのことを目を見開いて見た。彼はいつのまにこんなにも大人びた対応をできるようになっていたのか。自分の知らないところでこんなにも成長していたのか。そんなまっすぐで素直なオズの姿を小さな頃から追いかけていたのに、俺が騎士になったせいで間近で見られなくなったことが悔しかった。
小さな子どもだった彼が今こうして自分と目を見て話している。その事実に、彼の過去の人生を見てきた身からすれば心を打たないわけがなかった。人とはこのようにしばらく見ていない間に成長するものなのだろうか。
しかし今後どうすればよいだろう。こうしてオズに真実を伝えた結果起こりうる数々の不穏な影を感じ取ると背筋が寒くなる。彼の存在だけはずっと俺だけの秘密にしておきたかった。子どもが宝箱の中に隠したお気に入りの人形のように、決して誰の目にも触れさせずに手の中に置いておきたかった。そんな翳りを帯びた感情を抱く者がまさか自分であるとは信じたくなかった。だからオズに辛くあたった。彼の必死の訴えにも心を鬼にして相手にせず《弟》であることを周りの人間に気づかれないように虫のような扱いをした。そこにはある種の独占欲すら見え隠れしていた。
オズは俺だけのものなのだから。
オズだけは俺を信頼して裏切らないから。
オズは決して俺を疑わないから。
自分に都合の良いオズ像を打ち立てて秘密を保ってきた。しかしオズのまっすぐな瞳を見ると目を合わすのすら怖くなった。オズは勘がいい弟でとても賢いからいつか見破られてしまうのではないかと身を切る思いで接してきたのも事実だ。
けど、もういいか。
お前の顔が見れるのに、傍にいるのに、俺のせいで泣いているのに、お前に触れられないのは耐えられない。
俺は静かに手のひらをオズの頬へ添えて小さな顔を包む。花束みたいに優しく、胸の中へ抱き寄せた。
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