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第78話 なぜ嘘をついていたの?

 オズはただひたすら考えていた。 ーーなぜ、ハイリは人が変わったかのように振舞ったのか……。  オズのことをまるで他人みたく扱ったのか。 「なぜ、にいさまはぼくのことを忘れたふりなんかしたのですか?」  ハイリは小さく溜息をつくと、ぽつりぽつりとその経緯を話し始めた。 「俺が騎士になると決め、騎士団寮へ入ったと思ったら、お前が自分も俺を守るための騎士になるなどと言ったから……。俺の後を追わせるつもりはなかった。お前も見てきたであろう。俺がどれだけ命を狙われているのか。そしてその時に傷つけられる者がいることも。何度も、見てきたではないか」  ハイリの肩は、静かに震えてまるで泣いているように見えた。 「許せ。オズ。俺はお前に危険を寄せ付けたくなかった。俺とお前が兄弟のように育ったと聞けば、俺の失脚を狙う者がまずお前を人質として俺に見せつけるだろう。俺にはそれが怖くてたまらぬ。お前のような何の罪もない人間が、スウェロニアという名前の下でぞんざいに扱われるのが決して許せないのだ。だからお前を空気のように扱った。俺とお前との繋がりを他人に気づかれぬようにするために」  オズはただ黙ってハイリの話に聞き入った。たしかに、今の説明を受ければハイリがオズを遠ざけるように接していた理由がわかる。わかったからこそ、胸につかえていた何かが溢れんばかりに震え始めた。それはオズの睫毛だった。長く緩いカーブを付けた目の山が震える。心の底から湧き水が迸るような感覚だった。 「にいさま。どうか、謝るのはおやめください。オズはわかっております。今のお話を聞いてなぜにいさまがぼくにあのような態度をとられたのか、十分に理解できました。にいさまは、ぼくを守ってくださったのですね。ぼくは嬉しく思います。今、こうしてにいさまと話せることが、とても嬉しく思うのです」

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