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第77話
「あれほど言いつけただろう」
と、貴方の白百合みたいな唇が奏でるんだ。
僕だけを見つけてくれた、あの雪の日から。手がかじかんで赤くなるまでに、降りしきる雪の山を払い、僕の心を救ったのは。
あのね、にいさま。
貴方以外、いないんです。
僕のこころを映した人は、この世にただ1人貴方だけ。それを、知っていて欲しかった。貴方にだけでいいから、忘れて欲しくなかっただけなんです。それはぼくのたったひとつの我儘でした。
「泣くのをおやめ。オズワルド。スウェロニア家の人間が、人前で簡単に泣くんじゃない」
オズ、と愛称で呼ばないことが、ハイリを大人にさせたのだと知る。
ああ。あの頃の無邪気なハイリは、もういないんだなあ。とても美しく、強く成長されたな。きっとスウェロニア家の皆様も鼻が高いだろうなあ。こんなに逞しいご子息に恵まれているんだ。
瞳の中が潤み、淀んでいっては、ハイリの翡翠色の波をそそぐ瞳の中に溺れていった。
僕のこころなど、とうの昔から貴方だけのものなのに。
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