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第76話
「気分はどうだ?」
「たぶん、大丈夫です」
包帯がぐるぐると巻かれた胸元に手を添えられる。心臓が高鳴った。無防備な胸元を撫でるような手つきに頬が紅潮する。身体中の熱が頬に集まる感覚に体が震えた。
「おまえは立派なスウェロニア家の子だ」
おもむろにハイリが口を開いた。その声はどこか温もりを孕む。大好きなその声が不意に力なく地に落ちる。
「だが、お前は大馬鹿だ」
そう吐き出したハイリの横顔はどこか寂しげだった。
「俺のために命を張るなど……」
ハイリは言葉を失ったように押し黙る。
「にいさま? ぼくのことを覚えているのですか?」
ぼくは目を丸くして聞いた。ハイリは黙って椅子に座り直すとぼくに向き合った。
「共に育った弟のことを忘れるはずがないだろう」
いつもは張り詰めている切れ長の目元を少し和らげて、ハイリはふっと優しく微笑むとぼくの額に手を置いた。
「お前には謝らなければならないことが山ほどあるな」
その瞬間、ぼくの瞳からはぶわっと滝の様な涙があふれた。次いで嗚咽が込み上げてきた。
よかった……にいさまがぼくのことを覚えていてくれた!
ハイリの手を掴み、強く引き寄せる。体のバランスを崩したハイリがぼくの肩を抱いた。ぐっと2人の距離が近くなる。
だからぼくは慌てて体を離した。なにか胸がざわざわとしたからだった。「この距離はいけない」とぼくの脳内から危険信号が溢れたように。
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