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第75話 理由
「っは」
目を見開くと白い光がまぶたを突き刺した。思わず腕で顔を隠す。アルコールの匂いがつん、と鼻をついた。
ここは……医務室?
横目に見える戸棚には薬品の瓶がいくつも並んでいる。体は重だるく、手足を動かすので精一杯だ。
「?」
誰かの吐息が聞こえて、ぼくは目を回した。ぼくが横になっているベッドの隅でこっくりこっくりと船を漕ぐ頭部を見つけた。それは黒髪でところどころに白い毛が混じる頭だった。
「にいさま?」
静かな声で呟くと、船を漕いでいた頭の動きが止まりその男はゆっくりと顔を持ち上げた。そこには目に陰を落としたハイリの顔があった。
よかった。顔に傷ひとつない……ちゃんと守れたんだ。ぼくがハイリを……。
その顔はどんどんぼくに近づいてきて、ぼくは目を合わせるのが難しくなった。
なんでそんなに見つめてくるんだろう。勝手な真似をしたから怒っているのだろうか。だとしてもぼくは正しいことをしたんだ。だから悔いはない。
ぎゅっと目を瞑って頬に走るであろう衝撃に耐えていると、大きなため息が頭上から聞こえてきた。たいそう呆れている。そんな声だった。
「無茶をするなとあれほど言っていただろうに」
そう呟くとぼくの頭をわしゃわしゃとかく。ぼくは驚いた反面、その優しい手つきに緊張がほどけていくのを感じた。
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