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第6話 看護師さんは天使だよなあ

「……」  目を開けるといつもの光景が目の前にあった。白い天井と薄い黄色のカーテンに遮られて秀治は寝ていた。ぐるりと目を回して室内を見やる。手首と足首には黒い革の拘束具が付けられていた。暴れさせないための予防措置だった。 「また私の担当ですね。寿さん」 「……柳田(やなぎだ)さん」  黒いお団子を頭の後ろに作った看護師の柳田が秀治の部屋に入って早々、そう笑いかけた。その笑みに不快なものは感じない。秀治はふっと鼻で笑う。 「また、失敗した」 「失敗してよかったです」  検温しますねと柳田が秀治の体を起こす。拘束具がガチャガチャと鳴った。 「またしばらくは措置入院になりますからね。いっぱいご飯を食べて眠ってください」 「わかった」  柳田は精神科のベテラン看護師だ。患者の対応にも慣れている。秀治はぼんやりと窓のない個室の天井を見つめる。手のひらを閉じたり開いたりしていると、柳田が検温を終えた体温計を秀治の脇から取り出した。 「手、どうかしました?」 「……なんか、あったかかったなって」  そういえば、と柳田が秀治の目を見ながら呟く。 「今回は通行人の方が救急車を呼んでくれたみたいですよ。優しい人だったみたいで、病院までついてきて警察の事情聴取にも快く応じてくれたとか」 「……そうなんだ」  じゃあその人だったのかな。秀治は柳田から目を逸らして自分の手を見た。細くて今にも折れてしまいそうなほど弱々しい腕。七部丈の入院服では左手首の内側にあるリストカットの跡は隠せていない。何本も筋が通り肉が盛り上がっている。そっとその段差を指でなぞった。こうするとお風呂の中にいるような安心感が得られる。

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